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□君のいる日常 42
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ほんまになあ、人生油断したらあかんねんで。

「ん・・・なんやねんこの音は・・・」

俺は巨大な蜂にでも囲まれとるような気がして目が覚めた。
よう開かん目をなんとかこじ開けて見ると、俺の頭の周りで時計が3個盛大に鳴っとった。

「痛っ・・・!」

蜂がいなくなったら今度は頭ん中で鐘が鳴っとる。
それで俺は昨日のことを思い出した。
昨日は金曜日やった。
ただ、バイト先の食事会みたいなんがあってん。
断ろ思ったんやけど水月が「私は平気だからたまには行ってみれば?」なんて可愛いらしく言ってくれたんで珍しく参加したんや。
もちろん一次会で飯食ったら速攻帰るつもりで行ったんや。
でもいろんな生活してる人がおって、話聞いてるんも面白くてついつい盛り上がってしもて・・・しもて?
あれ、俺どうやって帰って来たんやろ。
え・・・俺、記憶飛んどる?
で、水月は?
隣におるはずの水月がおらん。
俺は頭が痛いのも忘れて飛び起きた。
リビングへ飛び込むとテーブルの上にメモが置いてある。



「ちゃんと学校に行きなよね〜」



メモを見る限り怒ってはおらんみたいやけど・・・
気にはなるけどとにかく大学行かな。
俺はとるものもとりあえず大学に行ったものの授業なんてまったく手につかん。
やって、何かものすっごく重要なことを忘れてる気がするんや。

「忍足、具合悪そうだね〜」
「沖さん・・・」
「忍足くんは確か周助と同級生よね?」
「はい・・・」
「じゃ、未成年のくせに二日酔いな訳ね〜」
「すいません・・・」
「まあまあ麗ちゃん、そこら辺はあまり突っ込まずにさ」
「水月ちゃんに怒られたんじゃない?」
「それが問題ですねん」
「どういう意味?」
「覚えてへんのです」

俺は覚えてる限りのこととテーブルにあったメモのことを話した。

「それを聞く限り怒ってはいないみたいねえ」
「とりあえず、メールでもしてみたら。さりげな〜い感じでさ」

で、俺はメールしてみたんや。
さりげな〜く。
あくまでもさりげな〜く。
そしたら・・・や。

「ちゃんと起きられたんだ〜。よかったね〜お兄ちゃ〜ん!」

て返事が来た。

「お兄ちゃんてなんやろ・・・う、わっ」
「どうしたんだよ?」
「思い出したんだ?」

麗子さんの言う通りや。
俺はぜ〜んぶ思い出した。
まずい・・・まずいでっ。
盛り上がった俺らは車で来とって飲まんでいた人にみ〜んなして送ってもろたんや。
どういう訳やったのかは忘れたけど俺んちが一番最初で。
そういう時って意味もなくみんなしてそいつんちまで付いてったりするやろ。
昨日もそうやった。
もう水月は寝とる思とったらまだ起きとって。
その水月を見てコンビニで昼間働いとるおばちゃんがこう言った。

「あら〜忍足くんて妹さんと暮らしてたんだ〜。可愛い妹さんね〜」

って。
はっきり言ってそれだけやって大問題やのに、これに水月がに〜っこり笑ってこう答えた。

「兄がいつもお世話になってます」

そして俺に向かって付け加えた。

「ほらお兄ちゃん、しっかりして?」

・・・・・・・・・。
これがまずくなくて何がまずいっちゅうねんっ。
そうじゃなくても子供っぽく見えるとかものすっごく気にしてるんに。
ああ〜もうどうしたらええのやっ。

「まあでもさ、女の子連れて帰っちゃった訳じゃないし、大丈夫だろ」
「そうですやろか・・・」
「あの水月ちゃんがそんなに単純とも思えないけどねえ」
「・・・・・」
「麗ちゃん、何もそんな傷口に塩を塗るようなこと言わなくても・・・」
「言いたくなっちゃうのよね〜」
「さすが不二の彼女」
「何か言った?」
「いいえ何にも」
「とりあえず今日は早く帰って美味しいものでも作ってさ」
「そうします」
「そういうの男の浅知恵って言うのよ」
「麗ちゃん・・・」

とにかく帰らな。
帰ってやれることは全部やらな。
ああ〜でも水月はうちにちゃんと帰ってきてくれるんやろか。
そうや、帰ったらまず荷物や荷物。
水月のお泊まりの荷物を確かめるんや。
それがあれば大丈夫や。
水月はちゃんと帰ってくるってことや。
でもなかったら?
あかんあかん。
そんなことは考えたらあかん。
人間ポジティブにいかな。
そうやポジティブや、ポジティブ!
俺は呪文のようにポジティブポジティブ言いながら家まで帰って、部屋に駆け込んだ。

「あった・・・」

水月がうちに来る時にいつも持ってくるバッグがちゃんとあった。
とりあえず、ひと安心や。
俺はそれからキッチンを磨いてリビングを掃除して、風呂場をピカピカにして水月の帰りを待った。


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