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□君のいる日常 44
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「暑い〜」
「だいたいなんで長袖なんか着てるんや」
「日に焼けるとぶつぶつできちゃうんだもん」
「前からか?」
「去年から」
「去年?」
「全国大会の時から。なんか急に日に焼けたのがよくなかったみたい」
「そんなん知らんかったで」
「心配するでしょ?」
「まあするわな」
「だから黙ってたの」
「医者には行ったんか」
「去年はそのまま治っちゃったからほっといた」
「あかんで、行かな」
「うん。でもね、今年になって予選に行き始めたらまたできちゃったから、行ったの」
「それで」
「日に当たるな、だって」
「それはきついなぁ」
「でしょ?紫外線に当たっちゃダメだって言われたってさ〜」
「それで長袖か」
「うん、でも、そうするとやっぱりできないから楽だよ」
「そっか。でも暑いやろ」
「あ、でもね。肌を被ってる方が汗を吸って楽なんだってよ。テレビで言ってた」
「へえ〜、そうなんか。なら俺もこれから長袖着よかな」
「着てるじゃん、しょっちゅう」
「それもそうか」
「でもね〜、半袖のTシャツとか袖無しのとかも好きだな〜」
「それは半袖を着てる俺とか袖無しの俺とかが好きってことか?」
「そうで〜す。だってさ、侑士の腕ってかっこいいもんっ」
「なら、長袖と交代で着ればええね」
「うん、それがいいなっ」
「なにアホくさい会話してんだよ」
「跡部、遅いで」
「まだ始まってねえんだろ?」
「由衣ちゃんは?」
「水買ってくるってよ」
「私、たくさん持ってきたのに、ほら」
「ま、あって困るもんじゃねえし、いいんじゃねえの」
「ねえ、先輩」
「なんだよ」
「先輩はさ、どうしてそういう時、買いに行ってあげないの?」
「あ?」
「あ?じゃなくて、どうして由衣ちゃんの代わりに行ってあげないの?」
「由衣が買いたいんだぜ。なんで俺が行くんだよ」
「侑士だったら行ってくれるよ?」
「俺は忍足じゃねえ」
「そんなの関係ないよ。今度から行ってあげなよ。こんなに暑いのに」
「・・・・・・・・」

俺はおかしくてしゃーなかった。
そうなんや。
確かに跡部はそういう時、行ってやらんのや。
お坊ちゃまやからなあ、そういう発想がないんちゃうかな。
でも、それをそう納得せんで聞くところが水月やねんけどな。
他の奴じゃ、そんなことよう言えんもん。

「なに話してるの?」
「あ、由衣ちゃん、こっち日影だからこっち来て?」
「うん、ありがと。で、なんの話?」
「なんで跡部先輩はお水を買いに行ってあげないのか聞いてたの」
「俺なら代わりに行くんやて」
「そうねえ、そうかも。考えたことなかったけど」
「なんだよ、なに見てんだよ」
「私のこと愛してないのかしら」
「なっ、なにくだらねえこと言ってんだよっ」
「じゃあこれからは行ってくれるんだ?」
「あ〜行くよ、行けばいんだろが?」
「じゃあアイス食べたいな〜」
「・・・・・」
「先輩、アイスとか買い方知ってる?」
「ふっざけんなっ」
「あれまあ、行っちゃったで。ほんまに買えんのか?あいつ。見たことないで」
「まさかあ、買えるでしょ。アイスぐらい」

女の子ふたりはそりゃもう楽しげ〜に笑っとる。
まったく跡部もこいつらにはぜんっぜん歯が立たんからなあ。
その後は俺も含めて跡部がアイスを買えるのか、ってんで大盛り上がりやった。

「はい、アイス」
「なんで日吉くんがアイス持ってくるの?」
「跡部先輩に会ったら、買ってこいって」
「言われたの?若くん」
「そうだけど・・・?」
「跡部、お前やっぱり買えないんやな、アイス」
「たまたまだ。ちょうど日吉が来たから言っただけだ」
「ねえ、若くん、正直に言って。景吾、アイス買えそうだった?」
「え・・・」
「正直に言ってええで。お前の身の安全は俺が保証する」
「かなり迷ってた、と思う」
「てめえっ、いい加減なこと言うんじゃねえっ。どれがいいのか考えてただけだっ」
「なんとでも言えるよね〜、水月ちゃん」
「先輩、今度練習しようね。スーパーとか一緒に行ってあげるから、ねっ」
「そんなもん生きてくのに関係ねえだろが」
「先輩は困らなくても、将来子供とかに教えてあげられないと困るよ?」
「こ、ども・・・!?」
「やだ〜水月ちゃんなに言ってるの〜」
「お前なあ、自分がそないなこと言われたら真っ赤ちかやくせしてよう言うわ」
「人のことなら平気なんですよ。こいつは」
「人の彼女をこいつとか言うなや」
「でも先輩、ホントに今度一緒に行こうね!」
「そうね。いくらなんでも私も彼氏がアイスも買えないんじゃやだから、水月ちゃん、よろしくね」
「お前ら、ふざけんなよっ」
「あ、始まるよ!かなえ〜!日吉くん、来てるよ〜!」
「無視されてるで」
「お前の女だろ、何とかしろ」
「お前がアイスひとつ買えんからいかんのやないかい」
「買える、って言ってんだろうがっ」
「あれはどう見ても買えなそうでしたよ」
「日吉、死にたいか」
「いいえ。でも忍足先輩が保証してくれるそうですし」
「なんでそこで俺に振るんや」
「ねえ、うるさいよ、3人とも」
「「「すいません」」」

そうなんや。
今日はかなえちゃんの応援に来とる。
都大会の決勝なんや。
これに勝ったら全国やねん。
かなえちゃんはもちろん気合い入っとるやろうけど、もう水月がな。
お前がなぜ?ってくらいに気合い入りまくりでなあ。
一昨日辺りからほとんど寝てへんで、こいつは。

「なあ、今年は外野と内野と行ったり来たりせんの?」
「したいけどお客さんが多くてできないんだもん」
「なあに?行ったり来たりって」

俺は水月の例の応援スタイルを説明した。

「あはは〜面白い〜。見たかったなあ、残念〜」
「あれはあれで、かなり恥ずかしいから観客が多くてよかったと思いますよ」
「俺もそれには同意する」
「何よそれ」
「空耳や、空耳」
「ふんだ」
「ほら、ホントに始まるで」

こっからは俺なんか軽〜く無視やからな。
もう慣れっこやけどな。
可愛いしな。
もうすでに死ぬほど可愛いで。
手、握りしめてな。
おっきな声出して。
俺はそんな水月を応援しとる。
やって、大事な大事な水月が熱中症にでもなったら大変やろ。
せやから、せっせと水とか渡したげてるのやな、うん。
そんな俺を残りの3人はかな〜り呆れて眺めてる思てたら・・・


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