君のいる日常 T

□君のいる日常 8
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水月は悩んでいる。
真っ青な原稿を前に悩んでいる。

あの部室でのやりとりの後、水月は井上から試合のビデオや試合結果の詳細を借りて、それを見てレポートを書く、と言うことを続けている。
今のままでも高校生らしい文章で悪くはないのだが、やはり夏の本番までにブラッシュアップしておくのもひとつだ、と言うことで始めた。
どちらかと言うと水月の方から希望した。
やはり、いくら高校生目線でとは言え、普通に本屋に並ぶ本なのだ。
怖くないと言ったら嘘である、と言うより、思いっきり怖い。
だから練習の期間がほしかった。
ところが、である。やはり本職は本職。
水月の原稿はいつも真っ青で帰ってくる。
直しの青ペンで真っ青なのだ。
それを見る水月の顔は青いと言うよりは白くなっていて、最近では半べそなのだ。

「また真っ青・・・」
「いつ見ても見事やね」
「笑わないでよ〜」
「笑ってないで。感心しとる。よくこんなに直すとこあると思うで」
「う〜」
「で、水月はこれを見て『あ、ここは直さなあかん』て思うんか?」
「思う。ひたすら思う。だから落ち込むの。あ〜なんで気がつかなかったんだろう〜って」
「なるほどな」
「こんなんで私やれるのかな」
「まだ時間たっぷりあるんやし、直された意味が分かるんやったらええんやない」
「それはそうなんだけど・・・なんだかどんどん深みにはまってる感じするし」
「きっとそのうち分かってくるよ。そうや、今度俺の試合を書いてみたら。忍足侑士はかっこいい選手や〜って」
「先輩の試合は書かないつもりだから」
「なんで、全国でもか?」
「うん。だってちゃんと見たいから。約束したじゃない」
「それはそうやねんけど、書いてもほしいなぁ。形に残るんやで。今年の夏一緒に頑張った、って。うん、やっぱ書いてよ」
「形に残る、かぁ、、、あっ!そうかも。だらだら思ったことを流しちゃうからダメなのかも。できるかも!先輩、ありがと。ちょっと書いてみるから、後でね」
「俺はどないしたらええねん」
「ヒマなの?」
「うん、超ヒマ」
「なら、そこにいてもいいけど。でもしゃべんないよ?」
「ええよ。見てるから」


「真っ正面に座って顔見るのやめて」
「減るもんじゃあるまいし」
「すり減りそうな気がする」
「なんやそれ」
「眼鏡外してくれたらいいよ」
「じゃ、外そかな」

早く書けば、って感じである。
そんな感じで頑張っているのだが、次もその次もまだまだ青さは消えなくて。
今日も水月は悩んでいる。

そして・・・最近さらにもう一つ悩みが増えた。


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