Belphegor
□忍法、記憶喪失
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「人間はね、限られた時間の中で生きているんだって。あれこれみんな難しく考えて生きているけど運命ってだいたい決まっているからそれは無駄な努力なんだって。ベルくんはどう思う?」
ほら始まった。こいつの哲学タイム。
ニーチェだかヘッセだか知らねーけど正直未来とか考えたことはない。
「んなこと分かんねーよ。運命とか関係なくね?」
「ふーん…ベルくんそんな生き方してて楽しい?」
「なんだよ、お前は考えて生きても意味がないとか言っておきながら楽しさは追求するわけ」
「一度きりの人生だもの。楽しい方がいいじゃない」
そりゃあ金のある人生とない人生では例え同じ50年の人生だったとしてもだいぶ変わってくるだろう。
だからと言って楽しく生きようとか何歳まで生きようとか目標があるわけでもなくて。
「お前はそんなことばっか考えてて楽しい?」
瞼をふと落とす。
「運命だもの」
「そーかよ」
「運命は変えられないの。ベルくんにも、私にも」
いつもここで何も言えない。
返す言葉が見つからない。
「ね、ベルくん好きよ」
耳をくすぐる鈴の音のような声で愛を囁かれる。
白い肌に映える薄桃色の頬、紅を差したような血色の良い唇。
頬に影をつくる長いまつげ、ガラス玉のように輝く瞳。
負けじとオレの後を追いかけてくる歩幅。
泣きながらオレの手を握る、震える小さな手。
「ふふ、大好き」
どうしてたった5文字が言えなかったんだ。
どうしてもっとゆっくり歩いてやれなかったんだ。
どうして涙を拭ってやれなかったんだ。
どうして、
今さらな自分にどうしようもなく腹がたつのに記憶の中の優しいお前はオレを殺してはくれなくて。
声が聞きたいのにふざけたいのに見つめあいたいのに触れたいのに
お前がいいのに。
午前6時、部屋中に鳴り響くアラーム音。
また間に合わなかった。
wake me up…
残されたのは言えなかった『愛してる』と生まれて初めての後悔。
RADWIMPS 05410-(ん) より。
2012.02.19