Belphegor

割れ物注意
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生きるのはつらいです。死ぬのは怖いです。

いわゆる幸せは苦しいです。





「もう、もう会わないって、言ったじゃないですか」





運命とは惨酷なもので、子供じみた初恋をわざわざ叶えてくれました。


彼の姿を捕えた瞬間踵を返したというのに敵わない、指の痕がつくんじゃないかってくらいの力で腕を掴まれた。





「同じ建物に住んでんのに会わないって方が難しいだろ。つかアヤすぐ逃げるしむかつく」

「…ベルさんと一緒にいるの、辛いです」

「また嫌がらせうけた?相談のるしそんなやつ消してやるっていつも言ってんじゃん。でもアヤが嫌がるから、だからちょっとだけ距離置こうって」

「ベルさんのそういうところ嫌い!」





両の耳を塞ぎたくなる。脳が苦しい。


確かにベルさんとお付き合いすることになってからは先輩や同僚からの嫌がらせも増えた。
時にはひどい暴力をふるわれることもあった。

けれどそんなことで傷ついたりいちいち引きずるほど弱くはなくて。
一日の終りにベルさんとお話しできたから、拳の痛みも感じなかった。
そういうのじゃないんです。





「…ベルさん、もう、私のこと好きじゃないでしょう?」

「は?」

「好きじゃないって言ってください」

「アヤ、オレ冗談でもそういうこと言いたくない」


「だってもう嫌なんです!」





緩んでいたベルさんの手を振りほどく。
ベルさんの呆気にとられた表情は激レアです。

大きな声を出すのは珍しいこと。
ましてや感情任せに怒鳴ってしまうだなんて初めてで、自分でも驚いた。





「ベルさんのこと大好きですけど、ベルさん私よりずっと年上だし、お話も趣味も好みも合わないし、他の女の人とお仕事してるの見たくないし、でもでも、どうしようもなく好きなんです」





つまりは焼きもちなのだろうか。
自分でも何言ってるのか分からなくなっちゃって、己のこどもっぽさに呆れて…好きか嫌いかどっちかにしなさい。

これじゃあまるでヒステリックじゃない。
自分の感情もろくにコントロール出来ないような子供に、ベルさんなんて遠すぎたんだ。





「だから、さようなら」

「いやいや、意味わかんねーし」





背中からしっかり包まれる。
悲しくも恋しい感覚に思わずよろめいた。





「いや、放して!変態!セクハラ!」

「いってーなばか」




暴れる両手をつかまれる。
まさかの羽交い絞めですかこれ。





「痛いですっ、DVで訴えますよ!」

「いいから黙れ」





改めて抱き直される。
たった二日三日ばかりの話なのに懐かしくて優しくて、本当は泣くほど愛しかったベルさんの体温。


重なる彼の唇を拒めなかったのは不可抗力だからではなくて。
結局私はただの欲しがりだったのです。


さいてー?と覗き込むベルさんの顔を直視できるはずもなく、ただただ俯いた。


意地っ張りで泣き虫で面倒くさいこんな私を好いてくれるベルさんもおかしいですけど、とっくに緩んでいるこの腕から逃れられない私も相当おばかです。





「、もうっ…や…嫌です…」

「ごめん、それでもオレは」




魅惑の五文字




○○○○○。



2013.04.06


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