Belphegor

つまりはただの一目惚れ
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「ベル様、本日からコーヒーは一日3杯までです」

「は?」

「お体に悪い飲み物だと聞きました」


「自分が飲めねーから拗ねてんだろ」

「違います!」





どうにもコーヒーという飲み物は苦手です。
苦いばかりで大して美味しくなくて匂いも変だし。


お砂糖を入れても変に甘いというか…うん苦い、美味しくない。
決して子供舌だからという訳でありません、断じて。





「本日5杯めですよ。ベル様は睡眠時間も不規則なんですから、コーヒーくらい我慢してください」

「あ、取るなよ」





すっと取り上げたコーヒーをいとも簡単に奪い返される。
非常に危険です。





「メイドの私には出過ぎた真似かもしれませんが、ベル様の為です。覚悟」

「別にブラックでも飲めるけど」





コーヒーの代わりに取り上げたお砂糖もミルクも無意味でした。

こくっとベル様の喉が動く。
透き通る白い肌は羨ましい限りでいつ見ても見惚れてしまいます。

どうしてそんな黒いものが飲めるのですか。





「つーかさ、あんまりそういうの気にしねーわオレ。いつ死んでもおかしくねえ仕事だし」

「そんな、」

「まあそんなヘマしねーけど」





そう言ってベル様はしししと笑う。
一体なにが面白いのでしょうか。


平凡な家柄で平凡な生活を送ってきた私には、
そんなマフィアジョークちっとも笑えやしません。





「ベル様、冗談も程々にしてください。笑えないです」

「あん?」

「いつ死んでもおかしくないとか、」





何言ってるんだ私、たかが冗談に。
なんて失礼なことを簡単に口走って…ああ、泣いてしまった。


今回ばかりは本気で涙腺除去手術を考えました。


やっぱり欠陥品なんだこんな口、こんな目。
こんな顔、もう上げられない。


やっとベル様とお話しできるようになったのに、もう、お別れです。





「ずっと憧れていました。ずっとベル様のことを想っていました。ベル様のお側にいたくて、先輩からも相当いじめられましたけど私、一生懸命ここまできました」





どうして黙っているんですか。
いっそのことナイフとか、びゅんびゅん投げてこの黙らない口を止めてください。





「ベル様にとって私は何人もいるメイドのうちの一人だと思いますけど、私にはベル様お一人だけです。嫌なんです、死んじゃいや」





この際だ、全て吐いてしまおう。
だってもうこんな失礼な振る舞い、許されるわけがない。

それならばせめて最後に





「ずっと狙ってました、って言ったら笑う?」





…ああ、神さま。
私の耳は恐ろしく都合の良いように作られているようです。





「聞いてんの?」

「いた、痛いですっえ!?」

「好き。最初から」





なになになになに。
口が、まったく仕事しない。





「あ、あのっベル様、その」

「オレの4年間返せよ」





きっと夢だ、こんな私に似つかわしくない幸せは端から崩れて終わるはず。
それなのにベル様に引っ張られたそれの痛みは紛れもなく本物で。




熱を孕んだ左耳




「ベル様これ、どっきりなんかじゃ…」

「冗談で言うわけねーだろばか死んどけ」



2013.03.04


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