Belphegor

16歳
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数年ぶりに出会った彼はまるで別人のようだった。
ふわふわな金髪に大人びた顔つき。

少しだけ、寂しくなった。



「アヤじゃん、久しぶり。オレのこと覚えてる?」

「…どなたでしたっけ?」



無愛想な冗談が通じたらしく、よく一緒に遊んでやっただろーって、笑われる。
笑顔には見覚えがあるかな。

どうして遊びに来なかったんだよとか、もう高校生?とか、いろいろ聞かれて。
なんだかよそよそしくなってしまう。



もう8年くらいになるだろうか。


ベルさんのことがずっと好きです。



兄へ荷物を届けに来ただけの私を、ベルさんはお部屋にあげてくれた。

久しぶりなんだしゆっくりしてけよってオレンジジュースを出してくれて、自分にはコーヒーを用意して。





「アヤは部活とか入ってんの?」

「ばりばりの帰宅部です」

「そっか」





せっかくベルさんが話しかけてくれてるのになかなか展開できない。
会話力が欲しい。





「算数が分かんなくて泣いてたくせに、理系選択してんだ」

「あ、いえ、友達にのせられただけで…正直後悔してます」

「へー」





ふと迫り来る定期試験の存在を思い出した。

今までは自力でなんとか赤点回避してきたけれど、
今回ばかりはだめかもしれない…。





「そんな顔すんなよ」

「え?」

「わかんねーとこあんなら、また昔みたいに教えてやるし」

「あ、ありがとうございます、助かります」





そんなに顔に出てたかなあ。
それとも職業柄、こういう変化に敏感なのかな。





「てか、敬語やめろって。喋りにくいし、昔はベルくーんとか言ってたじゃん」

「それは、まだ子どもでしたし…」

「年齢とか気にしねーよ、オレ。アヤなんかは特に」





なんだか急激に喉が渇いた。
恋愛面でも私みたいな子どもを相手にしてくれるのかなとか、考えてしまって。
浮かれるな私。

すっかり氷で薄まってしまったオレンジジュースをすする。



本当は少しだけ、期待していた。

わざわざ制服を着て、いつもより短めにスカートを折って、覚えたてのお化粧をしちゃったり。
それでも彼には女子高生ブランドが効かないらしく。


部屋にもあげてくれたし、運よく気に入られて一夜をともに出来たらなーだなんて、下心満載でした。ごめんなさい。





「ジュースおかわりいる?ついでに持ってくるけど」

「あ、私はいいです!ダイエット中ですし」





薄まったジュースを飲んだりして、ちょっとお行儀悪かったかなーと反省。
すると、ベルさんは少し驚いたような表情を見せた。





「そんなことしなくていいだろ」

「えっでも、みんなしてますよ?」

「子どもが無理してンなことすると、大きくなれねぇよ」

「…そうですよね、お気遣いありがとうございます」





えへへと笑ってみせる。
やっぱりベルさんには子どもとしか見られていないのか。



二杯目の苦い香りが鼻をつく。





「…ベルさん」

「ん?」

「ひと口ください」





一瞬間があいて、彼が笑う。





「苦いよこれ」

「し、知ってますよ、それくらい」

「アヤ?」

「私だって、いつまでも子どもじゃないんです」






平常を装っているつもりだけど
ちょっと泣きそう。





「知ってる」





ぽんぽんと、ベルさんの手があたまに触れる。





「背だって伸びたし、綺麗になったし、女の子らしくなったよな。知ってるよ、でも考えてることはまだガキ」





考えていたことが見透かされていたようで、顔が熱くなる。





「私、ずっとベルさんに憧れていました。近づきたかったんです」

「うん。ありがとう」

「ベルさんには子どもに見えるのかもしれませんけど、でも、好きです」

「それも知ってた」

「コーヒーだって飲めますから、だから、」

「うん」

「どうしたらベルさんは相手にしてくれますか?」

「そうだなー」





うーんと考え込む彼に、そこまで自分に見込みがないのかと悲しくなる。

すると、それまで頭に置かれていたベルさんの手のひらが頬へと滑った。
びっくりして反射的に目を瞑る。

くすっと彼の笑い声が聞こえた。





「化粧が似合うようになったら、一緒にコーヒー飲みに行こう」




膝上15pの紺。




純粋な少女を受け入れることが、彼もまた怖かったのです。


2014.02.07


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