dark

□lost 5
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晶妃とミツルと、そして今はダークも共に住んでいるマンションのベランダは、狭い。
広大な大自然が印象的な世界で生まれたダークからしてみれば狭く感じるのは当然だが、それは典型的なよくあるマンションのベランダの広さだ。
そんな狭いスペースには誰の物なのかが解らない鉢植えや、ちょっとした野菜なんかが育てられそうなプランターが置いてある。
しかし晶妃もミツルも植物には興味が無いらしく、ダークがここへやって来る前から謎の植物が居座っていた。
どれが何と言う植物なのかは解らないが、土が乾いているのは良くない…という事ぐらいはダークにも解る。
今朝もいつものようにベランダに出たダークは、大きな丸い素焼きの鉢植えを確認する。
きちんと水やりをしていたこの植物は、近頃緑色の葉を増やして成長していたように思う。
しかし今日はそこに花が咲いている事に気付いた。
ダークは慌てて部屋に飛び込む。
「おい!アキヒ!」
キッチンへ入ってきたダークに気付き、晶妃は慌てて冷蔵庫の扉を閉めた。
「え!?ど、どうしたの!?」
それを見たダークは、すうっと目を細める。
「グレープフルーツ、つまみ食いしたな?」
「し、してない…。したけど…。」
手作りゼリーに入れる為に皮を剥いておいたものが冷蔵庫に入れてあった筈。
「まあいいや、とにかく来てくれ。」
それどころでは無いダークは晶妃の手を引いてベランダへ向かう。

ダークが見せたがっているモノに気付いた晶妃はスリッパを履き換えて鉢植えに近づいた。
「アジサイ、花が咲いたの!?」
「…うん。気がついたら。」
水色の小さな花が密集している。
そうか、これはアジサイというのか。
「ダーク、すごい!綺麗だね!」
顔を上げた晶妃は満面の笑みを向けてくる。
それがとてつもなく照れ臭いダークは困ったように頭を掻いた。
「いや、まあ…、水やりしてただけなのにな。」
「ダークが愛情たっぷり注いだからだよ、きっと!」
晶妃の言葉にダークは今度こそ顔を赤くする。
「…花なんかに、注ぐか、馬鹿。」
そう言うと恥ずかしそうな顔を伏せ、隣にしゃがみ込んで晶妃の手を掴んだ。
咲いたばかりの花をじっと見つめる。
しかし晶妃はダークの横顔を見ていた。
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