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□089、静かな夜
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カタカタカタ… 静かな部屋にキーボードを打つ音だけが響き渡る。
「これも駄目ね…」
私は思わずため息をついた。 これでもう何度目だろう。
―――せめて薬のデータがないと…
組織とは決着がつかないまま、コナンと哀は小学1年生としての日々を送っていた。
本当のところ、哀にとって今の生活は不満ではなく――むしろ幸せだった。
初めての友達
博士との暮らし
それに、たとえ相棒だとしても“灰原哀”の間は彼の隣にいられる…
組織に対する恐怖や、自分の過去に対する罪悪感も決して忘れたことなどないけれど、それでも、今の自分には居場所がある。
それがどんなに幸せなことか、組織にいた頃――宮野志保だった頃は知らなかった。
居場所を、失いたくない…
自分にそんなことを願う権利などないことは分かっているけど。
けれど、そう願わずにはいられなかった。
しかし、彼は違う。
彼は早く元の姿に戻ることを何よりも望んでいる。
彼には、彼の帰りを待っている人がたくさんいるから――
彼の両親
高校の友達
日本の警察
そして、彼の幼なじみのあの子
彼と彼女が幼なじみだけの関係じゃないことなど、出会った頃から知っている。
本当に、お似合いの2人だと思っている。
―――私なんか、比較対象にもならないわよね。
自分にできることは、彼のために1日も早く解毒剤を完成させること。
それが自分に課せられた義務でもある。
―――ちゃんと、分かっているわ…
本当は、彼にとって私は相棒にも値しない存在だということも。
自分には、幸せになる権利などないことも。
「分かってる…」
眠気覚ましの珈琲でも飲もうと、リビングへ降りていく。
――深夜2時
今夜も、眠れそうにない。