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□011、データ
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              ねぇ…
どうして…?

どうして強く責めたてようとはしないの?

どうして何も言わないの?

どうして…そんなに優しいの?



組織の崩壊から3ヶ月が経った。              

あの日の事ははっきりと覚えている。

――燃える研究所

駆けつけた警察と何とか逃げ延びようとする研究員、興味本意で見に来た野次馬が入り交じって人の波

「――灰原ッ!どこだ!?」

遠くから聞こえて来た彼の声に必死で応答する

「此処よ!」

「何やってんだ!早く来い!」

「えぇ」

――データは…?
彼の元へ向いつつふと気付く。

――薬のデータがっ…!

「…御免なさい、先に逃げて」
なんとしてでも取ってこなければ!

「何言ってんだお前!早く逃げるぞ!」

「すぐ行くから」

「おい早く!」

「…っ!」

強い力で掴まれた腕
その腕から逃れようと必死で抵抗する。

「…離してっ!」

だけど彼は決して離してはくれなかった。

「離してっ…工藤君!」

彼の手から離れることは出来なくて、そのまま引っ張られるように走り続ける。                       
――燃え尽き崩れていく研究所

「…そん
なっ!」

そんな…データがなかったら…
絶望で思わずその場に座り込む。
「灰原!?大丈夫か?」

「……して?」
どうしてあの時――」

――手を離してくれなかったの?
あの時研究所に戻っていたら、データを手に入れることはできたはず。

なのに――!

「………もう良いんだ」

え――?
「貴方…何言って……」


私の意識はそこで途絶えた。
目覚めた時、そこはベッドの上で――


私は幾つかの銃弾を浴びていたけれど、幸いにも命に別状はないようだった。

彼は毎日の様にお見舞いに来てくれた。
退院後も、毎日博士の家に来ていた。

そんな彼は、まだ子供の姿――「江戸川コナン」のままで。
私も、「灰原哀」のまま。


私達を幼児化させたあの薬――APTX4869
薬のデータを手に入れることは出来なかった。

それでも何とか解毒剤を作る方法はないのかと、研究は続けていたけれど――

知ってしまった。
私達はもう二度と、元の体に戻ることはできない…。

試作品を作る時に使用した成分にも対抗が出来てしまっていて――つまり、一時的に戻ることも不可能だということ。

その事実を知った時、深い絶望に包まれた。

どう
して…?

何度も現れ押し寄せる深い後悔と、どうやって彼へ償えばいいのだという自責。

――「工藤新一」という存在を結果的に消すことになってしまった…彼に。


「…話があるの」

あの日以来、彼と話したことは他愛もない世間話くらいで…お互いに、あの日のことには触れないようにしていたから。

「…あぁ」

こうやって真剣に彼と向き合うのは随分久しぶりな気がする。

「……解毒剤は…作れ…ない」

彼の顔をどうしても見ることができなくて

「……御免…なさいっ…」

下を向いたままなんとか声を絞りだす。

「…本当に…御免なさいっ!」

今にも溢れ落ちそうな涙をこらえたまま。


――強く責めたてられると思った。

「お前のせいだ」って――
それは事実だから。

だから、彼が望むのなら私は何だってする。何だってして償うと覚悟を決めていたのに――


「………もう良いんだ」

彼から出てきたのは、あまりにも意外な言葉

「………え」

「………灰原、もう良いから」
                             
――どう、して?
私は貴方の人生を狂わせたのに。
ねぇ…
どうして…?

どうして強く責め
たてようとはしないの?

どうしても何も言わないの?

どうして…そんなに優しいの?


「……っ!御免…なさい…」

ただひたすら謝り続けることしかできなくて…

「…おい、大丈夫か?」

優しく見つめてくる彼の言葉で、私は、自分が泣いていることに気付いた。

「………落ち着いたか?」

何故か彼の胸の中にいる私。
彼の前で泣いたのは…これで2回目。

――彼と初めて会った時   理不尽に彼を責めた私に、決して何も言わずに…


あぁそうか。
……彼はあの時から、こんなにも優しかった。


「本当に…御免なさい…」

今度はちゃんと、目を合わせて言った。

「私…貴方が望むのなら…何だってする。何だってして…償うから……だからっ――」

「……バーロォ…」

「……え?」

「誰もんなこと言ってねぇだろ?」

「…でもっ……!」

「俺がいいってんだから、良いんだよ…」

――本当に、貴方は優しい…
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