□あらしのひるに
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薄暗い部屋の中。
故意に灯りを消したわけではない。昼間なのに突然降りだした豪雨のせいだ。夜のように真っ暗ではなく、だから、灯りをつける気にもなれなくて。薄暗いまま、なんなとなしにぼーっとしていたが、狙ったわけではないのに、その曖昧な光の加減は俺の気持ちを妙にさせた。





「神楽と新八、帰ってこないのな」





沈黙に耐えかねたか、ただ単にそう思ったのか、名無しくんが口を開く。
その髪からは先程浴びたシャワーのお湯が水となり、肩にかけたタオルに滴り落ちている。俺を妙な気分にさせる、唯一の要素だ。





「この嵐だからな。志村家で足止めくらってんだろ」

「ま、俺もそのクチだしな」





俺はといえば、茶を出した勢いそのままに恋人の隣に座る。
名無しくんは濡れた髪をそのままに、珍しく俺が煎れた茶を啜った。





「あーなんでよりにもよって今日、万事屋なんかに来たんだ俺は」

「嵐が来ると知ってなお、どぉーしても銀さんが恋しくなったからでしょ?ていうか、万事屋なんかってなに?なんかはないでしょ」

「けつのアナは言ってなかった!嵐が来るとか言ってなかったね!」

「…名無しくんってホントに情報屋?」





溜め息をついて本気で悔しがる名無しくんにカチンときて、奴の髪をガシガシと乱暴にタオルで拭いた。
しなやかな髪の雫はいくらかとれたものの、湿度の高い今日は髪も乾くのが遅そうだ。いくらかの水分が毛先を束ね、白い肌に張り付いている。





「銀さんと二人きりだよ?しかもおうちでだよ?」

「俺は銀と違って忙しいの。早く家に帰ってお仕事したいの」

「そんなこと言って。ホントはイチャイチャ絡み合いたいくせに」





降られて駄目になった名無しくんの可哀想な服の代わりに着せた俺の服は、名無しくんにはいくらか大きく、簡単に手を滑り込ませられた。
ホントに、こんな薄い身体でよく情報屋なんて危なっかしい仕事やってるよな。俺の心配も少し考えてほしいもんだ。





「オイ…っ、」

「いいじゃん、久しぶりなんだし」

「っ…、難儀だよな、俺みたいな男すら興奮させるほどのイケメンだと」

「そんなこと言ったって俺のムスコはおさまらなくてよ情報屋さん」





白い首に顔を埋める度に、濡れた冷たい髪が当たってくすぐったい。
ピクリと身体を反応させる名無しくんはがんばって話を反らそうとしてるけど、それが照れ隠しだって幾度の経験から俺は知っている。





「んっ、…節操、なしが…っ」

「はぁ、名無しくんクン。俺がどんだけ節操だらけの日々を送ってるか知ってる?」





ツン、と胸の果実を弾けば、さらに大きく跳ねる可愛いカラダ。
身体が薄いからか、俺がそうさせたのか……まぁ間違いなく9割は後者だろうが、ホントに感じやすい。鎖骨に舌を這わせ、果実をいじれば、力の抜けそうな腕は自然と俺の肩を掴んだ。





「名無しくんはいつも忙しいそうだし、俺も心広いダンナとしてそれを分かっているつもりだし」

「んぁっ…、だ、れがっ…」

「だから仕事でうちに来たときは手ぇ出さないようにしてるし」

「だ、してるっ…いまッ!」

「いや、今日は水も滴る艶かしさだから」





納得できない、と名無しくんが一生懸命に俺を睨む。いやそんな上気した頬と潤んだ眼じゃ…ねぇ?俺のムスコに餌をやるのが上手いんだから、全く。
かと言って、俺だって仕事柄忙しい名無しくんに考えなしに襲ったりしない。今、嵐で名無しくんが雨宿りしてて、名無しくんの服は乾いてなくて、さらにしばらく神楽が帰ってこれなくて…





「こんな絶好のチャンスないでしょ!」

「残念ながら丸々声に出てるよこの変態天然パーマ!」





そんな、俺と名無しくんのおしどり夫婦「誰がだ!」がイチャイチャしてる時、ふと、名無しくんの携帯が鳴った。
初期設定の、固定音。
仕事柄、机には名無しくんの携帯が二台。一台は仕事用、もう一台はプライベート用。近い将来、これがもう一台増える予定だ「お前専用の携帯なら買わないからな」
まぁともかく、俺は鳴っていた携帯を手に取り、画面も確認せずに電源を切った。





「ってオイ!」

「ん?」

「ん?じゃねーよ。何してくれてんだ!」

「電話を切らせていただきました」

「銀、こっちが仕事用の携帯って知ってるよな…?」

「もちろん」





超絶男前な真顔で決めてやったが、間髪入れず名無しくんに殴られた。
細いわりに、これもやはり仕事柄か、最小限の力で振りかざされたように見える拳も結構痛い。





「しかもまさかの手加減無しぃ…っ」





俺が頭を抱え唸っているのは総無視で、名無しくんがソファーから身を乗り出し、先程電話の鳴った携帯からすかさずリダイヤルする。
そわそわしながら携帯を耳に当てる名無しくん。
…可愛い。なんて口に出そうものならまた鉄拳が飛んでくるんだろうけど。だって、なんだか恋する女子みたいだ。だが、恋してる相手は案外すぐに出た仕事相手であり、俺ではない。





「情報屋です!先程は大変失礼致しました…!」





濡れた髪を揺らしながら、見えもしない相手に向かってペコりと一礼する。
「リーマンか」と突っ込むと、再び鉄拳が飛んできた。そのまま席を立って、俺の声が届かないところへ移動しようとする。本格的に仕事モードだ。
そんなことはさせるか…!俺は痛む頭をこらえて、名無しくんの腰に巻き付いた。





「っ!……そ、そうですね、経過と致しましては…」





腰に巻き付いた瞬間こそ驚きで息を詰まらせた名無しくんだったが、瞬間、鬱陶しそうに見下した。そしてさらに、肘で先程殴った頭頂部をグリグリと圧迫する。もちろん、取引先との会話を円滑に進めながら。
あまりの痛さに「ぬぉ…っ」と唸ると、すかさず俺の口元を手で覆い、だ・ま・れ!と口パクを降らす。彼氏より仕事が大事かこのヤロウ!
名無しくんの意識を盗られ、名無しくんとイチャつける機会すら盗られ……普段、どうしてもお子ちゃま達がつきまとう分、今日、今この時が絶好のチャンスだってのに。頭にきた勢いで、ちょっと意地悪してみることにした。





「ンっ!」





さっきの続きとばかりに胸の果実を引っ張る。
構える暇もなかったのか、途端、素直な鳴き声がすんなり漏れた。焦ったのか、名無しくんは俺を殴る暇すら惜しむように「い、いえ、なんでもありません!」とすかさず釈明している。…へぇ、なんでもないんだぁー。





「…ぁっ、…っ」





引っ張った乳首を今度はグリグリと押し付ける。さっき名無しくんが俺の頭頂部にしてくれたように……やられたら3倍にして返さなきゃね!
睨み付けてくる名無しくんに気付かないふりをしつつ、名無しくんの首筋に顔を埋める。冷たく湿る髪は、いつも俺が使ってるシャンプーの匂いがした。同じ、匂い……俺も神楽も同じ物を使っているはずなのに、名無しくんの髪だけやけにいい匂いがする。…やば、ホントに興奮してきた。





「あっ……は、はい…っ、その件は、順、調に…っ」





再び振りかざされた名無しくんの腕をがっちり掴み、細い腰と共に後ろからホールドする。こうやって立って後ろから抱き締めていると、身長差も手伝って名無しくんの華奢さが強調される。
埋めた首筋には舌を這わし、特に弱い耳を甘く噛んでやれば、もがく名無しくんの力が抜けていくのが分かる。





「もう電話、切った方がいいんじゃない?」





それでも仕事をこなす真面目な恋人の耳元で至極小さな声で呟くと、力なくふるふると首を振った。
その拍子にぺちぺちと鼻先を掠める湿った髪と、若干紅潮した頬が、俺を煽る。乳首を弄んでいた空いた手を、徐々に下へ降ろしていった。





「いっ!?……い、いえ、すみません…本当に大丈夫、です…っ」





貸したスウェットと一緒に下着をずらせば、先走りで少し湿っていた。
なんだ、しっかり感じてるんじゃんなんて嬉しさを感じながら、芯を持ち始めた名無しくん自身を優しく扱く。






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