お題
□ど真ん中を射る〈アーチェリー〉
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※「バイクだけのトライアスロン」の続編です
「はぁ…」
今日も失敗。
いつもと何ら変わりなく、大好きな名無しくんさんに会いに行ったはいいものの……本日も、彼は分厚い本にのみ熱い視線を注ぎ。今日も今日とて想いが伝わることはなく。
毎日通ってるにも関わらず、こうも進展がないとなると…そりゃあ溜息のひとつやふたつ零れる。
本当は一日中ずっと彼を見ていたいけど、お腹が減ったため仕方なく名無しくんさんとさよならし、僕はうなだれながら食堂に向かった。(ちなみ名無しくんさんは誘っても来ない。昼食はいつも厚い本と共にバランス食品のみですましている。考えられない!)
「いや、今日はラビが悪いんだ。名無しくんさんに抱き着かれるなんて…羨ましすぎるあのバカ兎!」
途中、僕と名無しくんさんの世界にズカズカと入り込み、いけしゃあしゃあと本を渡したラビ。
なかなかない物らしく、感動した名無しくんさんは勢いよくラビに抱き着いていた。
「揚げ句、”大好きだ!”なんて…」
もう、溜息しか出ない。
「いっちょ前に恋煩いか?バカ弟子」
「うわっ?!」
びっくりした。
突然、どこからかヌっと出て来たのは我がバカ師匠。その赤い髪を無造作にかきあげ、始終僕を見てニヤニヤしている。
「な、なんなんですか、突然…」
「だから、”恋煩い”かと聞いてる」
その耳は飾りかと僕の耳を容赦なく引っ張る。
僕はそれを渾身の力で振り払い、今なおニヤつく師匠を睨み付けた。
「そうです、そうですよ!だからなんだって言うんですか!」
「逆切れかよ」
「どうせ僕は何も出来ないヘタレです!」
「なんだァ?手も出してねぇのか」
「アンタじゃないんだから!…師匠は恋に悩んだ事なんてないんでしょうけど」
「確かにねぇな」
「死んでくださいバカ師匠」
また、溜息が零れる。
「で、上玉なのか?」
「”で、”って…綺麗な人ですよ。髪と眼のコントラストがこう…」
思い出しただけで胸が高鳴る。
「理屈云々じゃなく、本当に綺麗な人です」
「ほう…そんな小綺麗な奴、この教団にいたのか」
「ちょっと師匠、手出さないでくださいよ?」
「それはそいつを見て俺が決める。で、その”綺麗な髪と眼”の色は?」
「手出す気満々じゃないですか!」
「ごちゃごちゃうるせぇな。さっさと言わないと頭ぶち抜くぞ」
「………透き通る銀髪に、光る碧眼です」
「銀髪に碧眼?…ほう」
本当は師匠なんかに名無しくんさんを教えたくなかったけど、名無しくんさんは男、だ。
流石の師匠も範囲外だろうと僕はにらんでいた。じゃなかったら最も危険な師匠に名無しくんさんを売るような真似なんて…
「おいバカ弟子、その小綺麗ってのはアイツのことか?」
「え?」
師匠が顎で指す方に眼を向かせる。
僕が歩いてきた方向だ。必然的に振り向く形になる。
その先には、真っ白な白衣に身を包み、それを飲み込むように輝く銀髪が…
「名無しくんさん…!」