ショート小説集

□運
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「じゃあ、逆の場合はどうなるんだい」
「運の悪い人と一緒にいたら、か」
「そうだよ」
「やっぱ、結果も逆になるだろうね」
「というと、具体的には」
「飲み屋に入れば恐いお兄さん方にケンカを売られる。休みに山登りでもしようものなら、たちまち遭難する。雨の日にはカミナリにうたれる。横断歩道では車にはねられる。木のドブ板なら踏み壊す。飼い猫には噛まれる。蟹にチンチン挟まれる。と、あらゆるとばっちりを受けるだろうね」
「そんなものかな」
「そんなものだよ」
「蟹にチンチン挟まれるのか、嫌だな。ひどい話だ」
「ああ、蟹にチンチン挟まれたら最悪だね」
「それじゃあ、あのう……。ちょっと言いにくいんだけど」
「なんだよ、気になるじゃないか」
「君との付き合いも、こんりんざい断った方がいいね」
「えっ。どうしてだい」
「ほら、だって君は」
「なんだよ」
「醜男だし若ハゲだしチビだし。遺伝で。そのうえ家も貧乏だから、これはもう不運としか……」



【了】
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