ショート小説集

□鬼
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「あの山の向こうへ行っちゃダメよ」と、窓の外を指さして太郎の母が言った。
「どうして」
 それは何度も聞かされた戒め。――太郎は、その理由が知りたい。繰り返しくり返したずねる。「ねえ、どうしてあの山の向こうに行っちゃいけないの。ねえ」
 母の腕にぶら下がる。ねだる様に。
 母は、なぜか悲し気な目を太郎に向ける。「それはね、鬼がいるからよ」
 初めて知らされた戒めの答え。――太郎は、興味を示す。
「鬼って、なあに。どんなことをするの」
「とても、ヒドイことよ」母は太郎の頭をなでながら言う。
「それじゃあ、分かんないや」太郎は母の顔を見あげる。「もっと、詳しく教えてよ」
「それは、できないわ。とにかくいろいろとヒドイことをするのよ」母は太郎をあやす調子。「あまり詳しく説明したら、太郎ちゃん決っとおフトンにおねしょしちゃうわ」
「ふうん」太郎はどうもスッキリしない。「じゃあ、どうして鬼さんはそんなヒドイことをするの」
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