ショート小説集

□逆効果
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 前回は研究費をムダに使ったな。でっぷりと太った貫禄十分のI氏は車の中でそう思う。I氏は、社長である。
 みずからが経営する製薬会社、そこの研究所の責任者を呼び出し降血圧薬の開発を命令した。二年前。髪の薄い、貧相な顔立ちのY博士へ。
 これが成功すれば、市場に多大なシェアを占めるはず。高血圧症で悩んでいる者は大勢いるのだ。研究費はすぐに回収できる。それどころか莫大な利益を我が社へもたらすに違いない。会社はますます発展。
 名声も手に入る。薬の開発を手掛けた会社の社長として。つらい症状を直してやったんだ。人々から感謝されないわけがない。
 それは博士も同じ。だから頑張ってくれ、と。
 そして時間、および惜しみない資金をかけついに薬は出来あがった。――まるで逆効果の薬が。服用すると、誰もが高血圧症になってしまう薬が。 
 これにはI氏、頭にきた。結果報告を受けただけで血圧も急上昇。なんでそんなものが完成した。どこに需要があるというのだ。 
 あの時I氏はソファーに向かい合って座っているY博士を睨みつけた。応接室のテーブルをどんと、叩きつけた。手が痺れるほど。
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