超短編小説集

□タイムマシンの成果
1ページ/13ページ

 博士のかねてからの夢は、世界平和である。
「ワシがぜったい世界を平和にしてみせる」と、口ぐせのように言う。
「もう、としも歳じゃ、金や女にはたいして興味がない。ほしいのは名誉。ノーベル賞をもらって、後世に名を残してみせる」
 動機は不純だ。
 しかし、世界平和がいいことに間違いはない。
 おれはその夢を実現させるため、助手として力を尽してきた。大学に通うかたわら、博士と二人三脚で研究の日々。――タイムマシンの開発である。これさえあれば、過去に戻って戦争の原因を取り除くことができる。未来から、高度な医療技術を学ぶことだって。 
 もちろん、簡単にいかないのは覚悟していた。なにせ博士は貧乏なのだ。つまり、これまでに大した発明はしておらず、研究費も少ないということ。二重の障害である。
 最初の頃は、完成の気配すらなかった。ガラクタを組み立てているような状態。動きも、しない。
 進捗(しんちょく)具合は、まさに牛の歩み。マシンが作動するまでに、三年の月日を要した。
 作動するようになってからが、もっと大変だった。ただのガラクタなら何の被害もない。中途半端に出来上がったタイムマシンは、むしろ凶器そのもの。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ