超短編小説集
□やってきたもの
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休日である。日曜祝祭日ではない。いわゆる会社の定休日だ。
本来なら、昼過ぎまで寝ているはずである。しかし、こんな日にかぎって朝っぱらから訪問者がある。
前日に酒を飲み、そのまま玄関のすぐそばに位置する応接間で睡眠を取っていたのもいけなかった。チャイムの音がうるさく、目を覚まさざるを得ない。無視することも不可能。敵はしつこい。ピンポーン、ピンポーンと聞こえてくるたびに腹が立つ。
そのうえ、間の悪いことに妻は子供の授業参観へ出掛けていて不在だ。俺が応対するより他にしかたない。
眠い目をこすりながら起き上がり、玄関へと向かう。
ドアを開けると白髪白髭の痩せた老人が突っ立っていた。片腕には唐草模様の風呂敷包み。
老人は俺と目が合ったとたん、にこやかな笑みを浮かべ揉み手を始める。――あきらかに、押し売りだ。
「うちは、押し売りお断りなんですよ。門にもその旨の札を出しているじゃありませんか」俺はふたたび玄関のドアを閉めにかかった。