蜜処・参 【萬】

□恐れがボク達を包む夜は。
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多くの仲間が死んだ。
最早「人間」という「生命体」であったことすら認識できないほど
体がひしゃげ、腕がもげて、誰が誰であったかすら判らない。

いつ、誰が、どう生きて・・とか
尊厳を称えられる事もなく次々と。

人間が牛や豚を、家畜を食べるように
いや、それ以下の扱いで食われ、捨てられ・・・死んだ。











「・・・・・っ!!!」

悪夢で目覚めるのは最早日常と化し、当たり前になっていた。
最愛の者を失い、いつか俺も発狂し声を荒げ泣くのだろうか。
最強の兵士と崇められ、力の無い者達からの羨望と期待を背負い

・・・欲しいものは全て手に入れているはずの俺も

きっと・・・、彼女を失うことになったときは


無力な「肉片」に過ぎない。













「ちゃんと舌を使え、いつになったら覚えるんだ」
「・・っふ。。むぅ・・・んん!」

熱に溺れた瞳で必死に舌を這わせるその姿に欲情する。
冷たい眼で観てやれば、より一層に睫を濡らす。
「自分を知る者」を全て失った彼女に残ったのは俺一人。
その事実と彼女の俺への想いを『束縛』の材料にした。

優しくしてやれたら
甘い言葉を囁いてやれたら

そうしてやりたい内心と裏腹に
抑えられない様々な"情"に流され
手酷く抱く事で所有している実感を得る。

「だらしねぇな・・・、腰・・揺れてるぞ」

フン・・と笑ってやれば恥らって眼を背ける。

ああ、たまらない。
求められている実感。
失うわけにはいかない。
愛なんて囁いている間に死んでいくかもしれないこの世界で
熱を孕んだ体に触れている事だけが「失っていない」実感を得られる。

「・・ッチ。・・・・もういい、離れろ」
「・・っん。。ぷァ・・あ・・・、ごめ・・な、さっ」

口淫が下手で俺が冷たくしている・・・とでも思っているだろう。
事実、そんな態度をしているのだから無理はない。

欲しくて堪らないのは俺の方だ。

俺も彼女も互いを失うことが怖くて堪らない。
口癖のように彼女は繰り返す
「独りにしないで」と・・・。




「こっちの台詞だろ・・」
「・・え?」



愛をくれてやれるほど、この世界は平和に作られていない。


「・・んむっっ!ん・・〜〜〜!!」


急いた様子でさほど慣らしもしないまま突っ込んで
悲鳴すらあげさせないように強引に口付ける。

あっけなく達した事なんて、腰の揺れをみればわかる。
舌を絡ませれば必死にそれについてくる。
耳を甘噛めば小刻みに震え、
じっと見つめてやれば不安げに見つめ返してくる



ああ、・・・・・



「俺だけのもんだ・・・っ」


不安でたまらない
悲しくてたまらない
怖くてたまらない


明日も変わらず君の心の蔵は動いているだろうか?
両の目玉はあるだろうか?
五体満足だろうか?
俺を変わらず求めるだろうか?


「どこにも・・行くなっ、何処へも!!」


乱暴に腰を打ち付ければ、浮ついたように俺の名を呼ぶ。

「り。。ヴァイさ・・んっ!!好き・・好きッです・・!!」
「・・っ・・ハ・・・っく・…!!知ってる」

君を失いたくない。
絶対に。

呆気なく壊れた俺の仲間のように
壊れた君を
死んだ君を抱くなんて悪夢、勘弁してくれ


「・・っ・・俺をっっ・・・独りになんざしないでくれっ・・」




彼女を抱きしめているはずの俺の腕は
小さく震えて、
神にすがる弱者のように怯えていた。















怖くて堪らないんだ。
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