蜜処・参 【萬】

□反省文。
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こんなだらしない男が好きになんて・・・。
同じ女と二度歩いているのを見たことがない。
しつこく交際を求める女をあっさりあしらう所なら何度も見た。

スラリと伸びた手足に、薄い唇。
首筋から流れる汗が鎖骨まで・・・


「そんな見られると、コーフンしちゃうんだけど?」

「っ!!!」

原稿用紙に顔を向けたまま、長机の反対側で意地の悪い声。

「み、、見てませんっ!」

机に肘を突き、右手で髪をかきあげる。
品定めするような目で、こちらを見つめフ・・と笑った。

「・・ね、30枚から1枚になんない?」
「な・・、なるわけ・・・」

その低い声。
舐める様な視線。
骨ばった指に形の良い爪。

ダメだ。目を合わせちゃ。



「は、っか、〜〜はや、早く書いて下さいっ!!
ソレ書いてもらわなきゃ、あたしが先生に怒られ・・・」


不格好なほど顔を背け、何とか囚われない様に己を律する。
安っぽいパイプ椅子から立ち上がる音。



来ないで
来ないで
あたしに入って来ないで。


伏せた目線の先にはスラリと長い足先。


ぺろ・・、コロッ・・・。

口元で飴を遊ぶ音。

やたら静かな指導室に柔らかく響く。


がたんっ、と半ば乱暴に隣に腰掛ける。

「飴、くれたからお礼に何かしてあげよっか?」

ぐいいいいいーーーっと顔を近づけて来られ、
思わず後ろの仰け反る・・・と、同時に

「っつあっ?!」

メガネを外され、そのメガネは目の前の男の顔に。

「わ・・すっげ度キチぃのつけてんだな・・」

「な、返し・・!」


腕を顔元に伸ばすと、指先が頬を掠め
その儘両腕を取られて、じ・・と目が合う。

「後輩チャンはイイ子だなァ、飴もくれてー・・
シャーペンも貸してくれてェー、遅刻する度に
声かけてきて怒ってくれるし、反省文書け書けって
着いてまわって、いーーっつも俺の事気にかけてくれて・・
バレンタインの時も顔真っ赤にして"義理チョコ"くれてェー
あ、バスケの練習試合にも応援に来てくれたっけー?」

「・・・や・・めっ























「俺のコト、好きで好きでしょーがないんだよねェ?」


















メガネの奥から、サディスティックな目。
頭のてっぺんまで一気に熱くなり、誤魔化すために怒鳴りかけた


その唇を



「やっ・・」









アッサリ奪われ、・・・舌まで入れられちゃって・・・





怒鳴りたいのとか
反省文30枚書けとか
遅刻すんなとか
コロコロ女変えるなとか
どうしていつも違う女といるのとか
あたしの事どう思ってるのとか
少しはあたしの事気にならないのとか
貴方の事好きなのとか
手を繋ぎたいとか
キスしたいとか
もっとあたしを見てとか
もっと触ってとか
名前呼んでとか
ドロドロになるまで犯してとか
アタマおかしくなるまでセーエキ飲ませてとか
俺のだって奴隷みたいに扱ってとか


ただヒトコト、好きだ
・・と言ってとか




全部そのキスでめちゃくちゃにされてしまった。







「んん・・ふァ・・あ・やァッう!」


二人の口内を何度か往復した飴玉は、
元が大玉だったせいか、まだ大きさを感じる程には残っていた。

どろーっと糸、というより水飴のように濃厚な
光の線を描いた唇は、その線を描いたままあたしと先輩の制服を汚した。


「飴、返すよ。ゴチソーサマ♫」

体中を弄り回された様に力が入らず、
トロトロに下半身が疼く。


「キスくらいでこんなとか・・かーわいっ」



小さい子をあやすみたいに頭を撫で、額にキス。

メガネを外し、机に置くと
原稿用紙を1枚、手に取りあたしに差し出した。


「コレ、反省文。

残りの29枚は、また"貰い"においで


・・・じゃ、またね?委員長」





人をこれだけ弄んでおきながら、
いつもの涼しい笑顔を浮かべ、何事も無かったかのように
指導室から出て行った。

机に突っ伏し、羞恥心と己の恋心を気づかれていた事に
堪らなくなり悔しくて恥ずかしくて情けなくて呻いた。



「・・・っざけんな・・・、クソ・・・」




悪態をつきながら、差し出された"反省文"に目を移す。



適当な生活態度からは想像もつかないほど整った字で
こう書いてあった。





















「一緒に遅刻したくなったら、連絡して(ハート

090-****-****」


END
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