民警

□ハッピーハッピー
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変な期待しないぜ!
なんて思ったものの。
無駄に期待をしてしまってる自分がいて。
チラチラと隣にいる相棒を見てしまう。

「ハッピーハッピー」

署につき、まず受付のレディからチョコを貰い、道すがら他部署の女子からもチョコを貰う。
貰うたび「義理ですけどー」なんて言われるが義理だろうがなんだろうがうれしいに越したことはない。
そのたび「ありがとう」と笑顔を返してチョコを受け取っていた。
俺の手の中には5つのチョコレートの箱。
そして隣にいるボリスの手の中にも、同数のチョコレートの箱があった。
俺とボリスはセットなんだろう。

「あ、おはようございます!はいチョコ!」

笑顔で挨拶とともに手渡されるチョコレート。
交通整理課の少し小さめの後輩だ。
元気と負けん気だけがとりえのような子で、珍しくボリスにも接する数少ない女性職員。

「ありがとう」
「ボリスさんには、これ」
「ん。ん?何か箱違わねぇか?」

俺が受け取ったのは正方形のチョコレートが描かれている箱だったが、ボリスが受け取ったのは、長方形だ。
しかも少し大きい。

「それ!今開けてみてください!ぜったいボリス先輩にあげようと思って!」
「ここでって、食べねぇぞ」
「食べなくてもいいんで!」

キラキラとした目を向けられ、ボリスはため息を吐きながら手の中にあるチョコレートを俺に渡して、包装紙をバリバリと剥いでいく。
パカッと箱を開けた、そこにあったチョコレートは、

「ぶっなにこれ」
「これ見た時絶対ボリスさんにあげようって思ったんですよ!」

ほぼ原寸大のトカレフの形をした、チョコレート。
ボリスは箱を持ってチョコを凝視して固まってる。

「君怖いもの知らずだねぇ」
「えーボリスさんそんな怖くないですよ?」

珍しい子だなぁ。
女子所か男の同僚すら怖がって近寄りたがらないやつもいるのに。
やっぱり女性警官はこのくらい度胸なきゃやってけないってことなのかなぁ。
なんて思いながらボリスを見ると、少し肩を震わせていて。
怒り出すんじゃないかと思っていたら。

「ぶっちょ、おま、これっくっくっくっだめっ腹っいってぇ!あっはっはっは!何だよこれ!」

肩を震わせていたボリスがとうとう腹を抱えて、笑い声を上げて笑い始めた。
珍しいこともあるもんだ。

「ボッボリスさんが笑ってる!」
「珍しいよー。ボリスがこんな笑ってるの俺だってそんな見たことないんだから」

かなりツボにはまってたらしいボリスは目尻に溜まった涙を拭いながら、後輩の頭をわしゃわしゃとなでた。

「サンキュ」
「!はい!」
「よかったね」
「えへへ」

本当、かわいい子だなぁ。

「お返しとか期待すんじゃねぇぞ」
「わかってます!それじゃ!今日も一日お勤めがんばりましょうボリス先輩コプチェフ先輩!」

元気に後輩は去っていく。
その後姿を見て、俺はさっきのボリスの笑い顔を思い出した。
俺だってあんな風に笑わせたことないのになー。
女子ってやっぱりすごいわ…。

「コプチェフ行くぞ」
「ん?あぁ。ねぇボリス、」
「買ってねぇからな」
「は?」

二人分のチョコを抱えたまま、ボリスと並んで歩き始める。
今日のパトロールの話をしようと声をかけたら、突然言われる言葉。
何を?
何か買い物でも頼んだろうか。
不思議な顔をしていると、ボリスが皴をよせてぼそりと言った。

「チョコだよチョコ」
「チョコって、…えーくれないの?」
「やんねぇよバカ。でも、」

言葉を切って、目線だけ俺を見る。
すぐ目線を進行方向へ向けるが、目が泳いでいた。

「今日、俺の部屋来いよ」
「え、」

ボリスからの誘いに、俺は腕の中のチョコレートを落としそうになった。
少なくとも足は止まった。
ボリスから、え、マジで?

「今日は俺が飯作ってやるからさ」

…。あぁなんだそっちか。
まー期待なんてしてなかったしボリスがチョコとかちょっとびっくりしちゃうからいいんだけど…。
そう思ってた。

「けど、今日はお前の好物作ってやるから、それで我慢しろよ」
「……うん!」

どんな可愛い女の子からもらうチョコよりも、ボリスが俺の為だけに俺の好物を作ってくれる方が何倍も嬉しい。俺はニヤニヤと笑いながら今日のディナーの事を考えていた。

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