民警

□疑心疑笑
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がなりあげたい気持ちを、
吐き出しそうになった声を、
すんでで押しとどめた。
周りの気配なんぞお構いなしに俺はその場を離れた。
行き着く所はいつもの場所。
扉を開け乱暴に閉めると、ガシャンと扉が悲鳴を上げる。
目の前のロッカーを蹴り上げた。
酷く耳障りな音をしてロッカーがへこむ。
吐き出せず体の中に留まった気持ちが、未だ腹の中でぐるぐると渦巻いてる。
最近学んだことは、怒鳴り散らしても意味がない事もあるということ。
気に入らないとすぐ頭に血が上ってしまう自分が大嫌いだということ。

「これじゃあのくそ野郎と同じじゃねぇか」

消し去ったと思っていた奴のニヤついた顔が浮かんで、思わずロッカーを殴った。
違う。そういうことじゃない。
そうじゃない。違う。
違うんだよ。

「そうじゃねぇだろうが…」

さっき同僚と怒鳴りあいをした原因は、なんだったか。
小さな発端すら忘れてしまうくらい、頭に血が上っている。

「ボリス!」

ガチャリと音を立てて更衣室の扉が開かれた。
扉の先にいるのは、最近相棒になったコプチェフ。

「何だよ」
「…入ってもいいっすか?」
「勝手にしろ」

同僚と喧嘩をするといつも俺はここの更衣室に来る。
ほとんど使われていないこの更衣室には誰も来ない。
のぼせた頭を冷やすにはちょうどよかった。
俺の様子を伺いながらコプチェフは静かに扉を閉める。
俺は気にせず埃をかぶったベンチに腰掛けた。

「また、喧嘩したって聞いたけど」
「お前には関係ねぇだろ」

ポケットからタバコを取り出し火をつける。
灰皿を引きずり寄せ、灰を落とした。
タバコの味に少しだけ、落ち着く。
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