デュエット・アイドルソング編

□第一章
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〜アルトside〜

歌謡祭が終わってから、もう一月が経つ。

その後僕たちは同棲生活を行っていた。

一緒に居る必要性は無くても、何と言うんだろう…。

いないと違和感がある、っていうのかな。

アイは博士の手元から離れ、メンテナンスのみ頼ることにしているらしい。

『人のように回復力を持たないボクには、メンテナンスは欠かせないものなんだよ。

たった少し…何ミリかの小さな傷でも、ボクは治すことが出来ない。

だから、メンテナンスで治してもらうしかボクには出来ない。

自分で治せないのがすごくもどかしいよ』

そう、言っていた。

確かに、ロボットであってどんなことも知っていても…。

回復を自分自身で出来ないというのは、最大ともいえる欠点だ。

「今日って確か…アイは夜まで帰って来ないんじゃなかったっけ」

鍵を開けると、静寂が包む部屋が僕を迎えた。

アイの事を考えていると、色々な曲が浮かんでくる。

博士は何も考えてなくてもアイの顔が浮かぶ時があるって言ってたけどね。

博士はなんだかんだ言ってアイの事を大切にしてるんだ。
愛音の代わりとかじゃなくて…ただ自分の息子のように大切にしてる。


アイの事を考えていると、曲が浮かんでくるんだから、曲を考えてみようかな。

「…でも、一人というより二人が歌うものがいいかなぁ」

カミュとのね。

二人は間違いなく一発OKとるんだけど。

アイはもちろん、ミスはしないし。
ミューもミスをするような人じゃない。

二人の収録はすぐに終わるだろう。

で、レイジとランもプロだし。

二回かそれくらいで終わると思うし。

「じゃあ、二人ずつのデュエットCDを出すことにしようかな。

…アイが帰ってきたら、この話してみよう」

そう呟いて、僕はソファに身体を預けた。

柔らかさに包まれて、僕は自分でも気づかないうちに眠ってしまっていた。




――――――――――



〜藍side〜

ようやく仕事が終わった。

終わったから、とメールを送った。
帰る準備をしていると大体は返ってくるはずなんだけど、今日は彼からメールが来なかった。

忙しいのだろうか?

いや、でも昼から仕事は無いから先に家に帰っていると言っていた。

メールじゃなくて電話の方が良い…?

一応、電話もしてみた。

でも出ない。

……ボクは気が気じゃなくなり、彼の家に急いで向かった。

ドアノブを引くと、鍵がかかっていなかった。

彼は無防備にもほどがある。
ちゃんと言っておかないとね。

よく見ると、机の上には楽譜用ノートが拡げられていた。

作曲でもしようとしていたのかな。

ソファで寝落ちしている彼を見ると、少し安心できた。

焦って帰ってきたけれど、何もされてない…よね。

電話も出ないしメールも帰って来ない訳だよね。

だって寝てるんだから。

「やっぱり、アルトはボクを惹きつけて離さないんだ」

ある意味、ね。

「少しは寝かせてあげようか」

たぶん仕事で疲れているだろうから。

紅茶を煮出して、準備くらいはしておいてあげよう。

生乳はわざわざ取り寄せているみたいで、いつもコーヒーメーカーの近くにある小さい冷蔵庫の中に冷えて入っている。

それをそのまま飲むこともあるらしいけど、ニキビ増えるから止めたほうがいいんだけど。

でもボクや彼には…関係ないか。

そんなものできないし。

温まった紅茶に冷たい生乳を入れると、ぬるくなってしまう。

だから、紅茶をもう一度足す。

そうすれば温かくなるから。

作り終わっても、結局彼は目を覚まさない。

仕方ないから自分で飲んで、彼の寝顔でも見つめていようか。

それに、ちょうどボクも歌詞が浮かんだところだから。
…だめだ、見つめながら歌詞を書くなんてそんな器用なことはできない。

「…普段は、何でもできるけどね」

こういう時、人のほうが器用だな、と思える。

機械でできた身体は、少しでも誤差があるとその機能をまともに使うこともできない。

不便なことこの上ないよね。

でも、ボクのこの感情も不思議なもので。

こう思うこともなかったんじゃないか。

人の方が―――――

一人よりも隣に彼がいる方が―――――

そう、思うことだって、ボクからしたら完全なる奇跡。

ロボットがそんなことを考えるだなんて、ありえないことだったんだから。

心を持たない

人の形をしただけの

機械仕掛けの

歌を歌うためだけにできたもの

それが今となっては

彼がいないといけないようになって

いつの間にか彼が何より大事になっている

その流れはとても自然だった
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