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□Sempre nel cuore.
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久しぶりの人混みに戸惑いつつもアイリーンは市街地の高校にたどり着いた。
渡された大量の教科書とともに支持された教室へと向かう。静かにドアを開ければ、嫌でも雑音が耳に入ってきた。
教卓に立つ老年の教師が、アイリーンに気づき声をかけてくる。
「ああ、転校生の子だね。君の席は・・・・・・Mr.カレン。彼の隣に座りなさい」
『・・・・・・はい』
わずかな沈黙の後、頷く。
カレン。フォークスのヴァンパイア。人狼との協定を守り、けっして人間を襲うことはない草食ヴァンパイアだとノエルが言っていた。そう、彼が・・・・・・。
「こっちだよ」
人間離れしていて整った顔の男子がバタースコッチの瞳でこちらを見ている。ブロンドの髪ときめ細やかな肌は艶やかに輝いていて、まるで俳優のようだと思った。
親切な案内通り、彼の隣の席に腰を下ろしたアイリーンが、ひかえめに声をかける。
『アイリーン=ムーンといいます。お隣、失礼しますね』
内心は心臓が早鐘を打ち、不安と恐れでいっぱいだったけれど、それを外に出すことなく微笑む。
今時の女子高生には珍しく清楚で丁寧な物言いに青年は一瞬、驚きを露わにするが、すぐにポーカーフェイスに戻って頷き返した。
「構わないよ。僕はエドワード=カレンだ。きみは・・・いや、なんでもない」
授業の間、エドワードは何度か物言いたげな視線を向けながらも結局聞いてくることはなかった。
エドワードの隣。つまり一番後ろの隅の席は、目立つのが苦手なアイリーンにとって都合がよく、終了のチャイムとともに誰にも捕まることなく抜け出すことができた。
と、思った。
「ねえあなた、これ落としたわ」
教室を出てすぐ、背後から声を呼び止められる。
肩を跳ねさせながら振り返ると、見知らぬ女子が手にブレスレットをのせて立っている。
あ、と自分の腕を触れば確かに付けていたはずのチェーンが無かった。
誕生日にノエルからもらったローズクォーツのチャーム付きで、とても大切にしているものだった。
『あ、ありがとうございます』
「いいのよ。それに――「ベラ!」、エドワード」
嬉々とした声が女の子の言葉を遮る。
颯爽と現れた先ほどの彼、エドワードは目の前の女の子を抱き寄せた。
「迎えに行こうと思ってたんだ」
「授業が早く終わったから。それより放してくれない?」
「どうして?」
「この子、驚いてるじゃない」
アイリーンは確かに驚いていた。まさか彼が、というかヴァンパイアが人間に抱きつくとは思っていなかったからだ。
協定を結んでいるとはいえ、あまり人とはかかわらないと思っていたけれど、間違っていたようだ。
エドワードの腕を抜け出したベラがアイリーンに手を差し出す。
「はい、これ。あなたのでしょ」
お礼とともに大事そうに受け取って、ほっと息をつくアイリーンに、ベラは尋ねた。
「大事なものだったの?」
『あ、はい』
頬を赤らめて頷いたアイリーンは、さらなる来訪者に怖じけざる負えなくなった。
「ベラ、エドワード!」
彼に続き、またも人間離れした愛らしい顔立ちのベリーショートの女の子が駆け寄ってきた。
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