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Sempre nel cuore.
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カレンたちとの問答の後、ラプッシュと市街地の境界線近くに建てられた新居に戻る途中、ハンドルを握るノエルは静かに尋ねた。


「怖かったか?アイリーン」


―――人間の中に入るのは。


二人でいるときのノエルは人前にいるときよりも大人びて見える。これまでの苦難の経験がそうさせているのか、普段より低めのその声も、少しぞんざいな言葉遣いも、焦燥と恐怖にかられる自分の心を安心させるのだとアイリーンは思った。


後部座席で無言で身を縮めていたアイリーンは、力なく頷く。


『・・・・・・ノエルは、知っていたの?』


「Ms.スワンのことか?」


こくり、と頷いてうつむいたアイリーンの顔を長い髪が覆い隠す。


歯がゆいことに運転席からは慰めることも触れることもできない。ノエルは彼女の震える身体をバックミラーごしに見つつ家路を急ぐ。


「・・・・・・知っていた。カレンたちが唯一干渉している子だと。彼――エドワードと言ったか。彼は人間である彼女のことを心から愛している」


『ヴァンパイア、なのに?どうして人間と一緒にいられるの?』


「愛おしいという気持ちに種族の違いはない。俺がお前を想っているのと同じだ」


『でも、人間は弱いの・・・・・・触れれば壊れてしまうくらいに、』


―――だから、エドワードは怖くないのかなって。それにベラだって。彼がヴァンパイアだと知っているのに恐ろしくないの?


アイリーンは弱い人間を知っている。それと同じくらい、凶暴で恐ろしいヴァンパイアの本性も。


目の前で血を吸われ殺されてきた哀れな人間も、自分という歪な存在を研究と興味の対象としてきた赤い目のヴァンパイアも。


赤い目につけられた今も身体に残るその痕跡は消えることなく、じわりじわりと自分を蝕んでいる。


だからこそアイリーンには理解できなかった。


彼女はノエルという人間でもなくヴァンパイアでもない新たな種族に出会うまで、その負の世界そのものが全てだと思っていたのだから。


『怖いの。どう接すればいいのか、わからなくて・・・・・・ベラもエドワードも、アリスだって、みんなやさしいのよ。とても』


吐息のように弱々しいその言葉に、ノエルは目を見開いた。そしてふと口元を綻ばせる。


自分以外とはけっして関わろうとしなかったアイリーンの口からそんな言葉が出るなんて。やはりフォークスを選んだのは誤りではなかった。


「アイリーン。カレンたちもベラも、お前という存在を受け入れてくれる。焦らなくてもいい。怖がらなくてもいい。ただ、ゆっくりでもいいから、心を開いてごらん」


『こころを、ひらく?』


「ああ。そうすればきっとわかり合えるはずだ」


不安げにミラーに映る自分の顔をうかがうアイリーンに微笑み返す。


フォークスでの新生活はまだ始まったばかりだ。



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