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Sempre nel cuore.
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―Prologue―




『――あの街が、フォークス・・・・・・』


身もすくむような崖に立ち、霧に包まれた街を見下し呟く。


ミルクティー色の髪の彼女は白いコートに身を包み、緊張を孕む瞳を憂いさせている。まるで何かを怖れるように、その面持ちは穏やかではない。


「アイリーン」


背後から現れた青年は、ふわりと風に揺れる甘いミルクティーにくちづけながら、その細い身体をそっと抱きしめる。


「大丈夫だ。ここでなら静かに暮らせる」


青年の腕の中でアイリーンは身を返す。青年の漆黒の髪に白く細い手を伸ばして、梳くように撫でると牙の形を模したイヤーカフが姿を現した。彼の高い体温とは裏腹に、楔のような金属のみが凍てついている。


『・・・・・・ノエル、ごめんなさい』


「なぜ謝る?」


『私のために、貴方が傷つくのは嫌だから』


彼はラプッシュの人狼だった。旅の最中アイリーンと出会い、そのまま仲間をおいて駆け落ち同然に町から姿を消した。そうせざる負えなかった。


『私がヴァンパイアだから、貴方は故郷を・・・・・・』


「アイリーン、よせ。俺はお前に出会ったことを悔いてはいない」


『でも――』


「でもじゃない。それ以上は言ってくれるな」


激情を孕んだ銀の瞳と彼女の瞳が絡まる。桜のように儚い彼女をつなぎとめるためにノエルは己の腕に力を込めた。


アイリーンは抵抗することもなく、力なく胸に寄りかかる。やわらかな髪に顔をうずめれば、かすかに身じろぐ気配がした。


雪がちらつき始める。


フォークスの冬は厳しい。はるか下方に見える街はすっかり雪に包まれているものの、最後に見た日と変わらずそこにある。


ノエルは懐かしげに目を細めた。


ラプッシュに戻れと連絡が来てから、随分と悩んだ。彼女はヴァンパイアの血を持つ。居住区には住めないだろう。


それでも心を定めたのはカレンがフォークスに帰ってきたと知ったからだ。身体に不安を抱える彼女には同胞が必要だった。


「アイリーン。どんなことがあっても、俺はお前のそばにいる」


ノエルは少し身をずらして白い頬をすくい取ると、色づく紅に己のそれを重ねた。


「――愛している、アイリーン」








―――ああ、私はずるい。


モノクロな世界の中で、貴方だけが色を与えてくれる。


貴方のぬくもりだけが真実だから。


どうか、わがままにも貴方を縛り付けてしまう、私を許してください。




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