『ANGEL and DEVIL』

□天使と悪魔の逸話
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地面がひび割れる。
空からは絶えず雷が鳴り響き、地面へと青い光を絶えず落としていく。



そんな魔界の様子を、第50代目サタン――悟空は、歯を食いしばりながら見つめていた。
悟空が立つ城のバルコニーからの景色は、昔のような黒の美しさは見受けられない。

ムキだしの大地は悪魔が住むことを拒み、空は悪魔が羽ばたくことを拒む。

それは、魔界の崩壊。





「悟空」

呼ばれた自分の名前に、悟空はゆっくりと魔界の景色から現実へと戻って来た。
振り向く前から、そこにいる人物はわかっている。
現在の魔界で自分の名前を呼ぶのは、彼一人しかいないのだから。

「悟浄………」

振り向くと同時にその名前を口にすると、悟浄は少しだけ表情を緩めて傍へと歩んできた。
その姿は少しだけやつれた感じがする。
それもそうか、と悟空は悲しく納得する。
現在の魔界の状況が、すべてを語っている。

「あんまりそっちに乗り出すと危ないぜ」
「ん、わかってるよ」

そう言って、今まで魔界を眺めていたバルコニーから離れる。
それと同時に、空から青い閃光が地面に向かって走り落ちた。
鋭い音と共に落ちた雷は、地面を抉り魔界を削っていく。

「………悟浄、被害のほうは?」
「…………もう、魔界の80%近くが壊滅状態。残りの20%も、もう時間の問題かもしれねぇ……」
「そう……」

悟浄の声を聞きながら、悟空はサタンのみが座ることの許される玉座へと腰掛ける。
玉座の一段下の床に、悟浄は方膝と片手をついて悟空を見上げる格好となる。
悟空は天井を見つめて、詰めていた息を吐き出した。

「なあ、悟浄…。ちょっとさ、俺の……サタンとしてじゃない俺の話…………聞いてもらってもいい?」

悟空の言葉に悟浄は一瞬目を見開いたが、すぐに静かに頷いた。





「………俺、やっぱりバカな恋したと思うんだ。この崩壊はきっと……俺が禁忌を犯したから」

天使と悪魔の交わりは禁忌。
それは遥か昔から定められていたもの。

「禁忌が崩壊を生んで、魔界も天界も飲み込んでいく。それほどまでに、悪魔と天使は……カミサマに許されない存在なのかな」

悟空の顔に嘲笑が浮かぶ。
カミサマは皆に平等。
そんな言葉、信じない。

「でも……それでも、」

例えカミサマが認めてくれなくても。
誰も認めなくても。



「三蔵と出会えて、恋できて………よかったと思う」



例え、その結末がすべての崩壊でも。






「俺って、サタン失格だろ?」

そう言って自分を嘲笑する悟空に、悟浄は反射的に立ち上がって玉座に座る悟空を抱き締めた。
一瞬驚いて目を見開いた悟空だったが、自分を力強く抱き締める腕の振るえに気付き、ゆっくりと悟浄の背中へと腕を回した。

「悟浄……泣くなよ」
「うっ、せぇ……。テメェが…らしくないこと……言うからだろうが」

まるで子供にするように、小刻みに震える悟浄の背中を宥めるように擦る。
雷が轟く音を聞きながら、二人は暫く抱き合ったまま時間を過ごした。



 
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