『拳銃と花束を』

□第4章
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三蔵と悟浄の目の前に、大量の資料がドサリと置かれる。

「これで、僕が調べた資料は全部ですよ」

資料を持って来た八戒は、その重みでこった肩を二、三度軽く叩いた。
『孫悟空の捕獲』という依頼を受けてから一週間。
まずは知らなさすぎる相手の情報収集を、と八戒が調べられる範囲のデータをすべて洗ってきたのだ。

「………これ、全部?」

机の上に置かれた大量の資料に、悟浄が指差しながら固まっている。
軽く50センチは山積みされた資料が、10束ほどあるのだ。
これからこの資料を全て見るのかと思うと、溜め息どころではなくなってしまう。

「さすがは…と言ったところでしょうか。偽物かもしれませんが、情報が山のようにあるんですよ。どれを信じるかは、自分たち次第ってところですね」

机に設置されている椅子の一つに八戒も座り、山積みされた資料の中から一枚の紙を取り出した。

「これは、確かなものですよ。1500年前の孫悟空の外見の資料です」

八戒は先ほどから一言も言葉を発していない三蔵に、その資料を手渡した。
素直にその資料を受け取った三蔵は、伸びた前髪を鬱陶しそうにかき上げながら資料を眺めた。

「……見た目15,6歳の少年。身長は160センチ程度。髪は茶色。その額には、強大な力を封じる金錮が填められている。瞳は、金晴眼と呼ばれる金色の瞳」

三蔵は資料に書かれているものを淡々と読んでいく。

「へぇ…。金色の瞳っつえば、幸福の象徴じゃねぇか。まあ、まれーに動物に見られるだけらしいけどな」

金色の瞳に興味を示した悟浄が、三蔵の横から資料をひょいっと拝借する。

「今では幸福の象徴なんて呼ばれてますが、昔は、金色の瞳は忌み嫌われていたらしいですよ。なんでも、凶兆を招くと言われていたそうです」

別の資料に目を通していた八戒が、机の上からまた別の資料を取り出す。

「ふん、瞳の色一つでどうこうなる問題じゃねぇだろうが。今も昔も、バカなところは変わらねぇな」

資料に目を通しながらも、三蔵の口からはスラスラと悪態が出で来る。
人間一般に対して好意を持たない三蔵を知っている二人だからこそ、その言葉は苦笑を招くだけで終わった。

資料をパラパラと捲る音だけが、流楼亭の奥部屋から聞こえてくるのだった。








孫悟空。

茶色の髪と金の瞳をもつ、1500年前は少年の姿をしていた人物。
初代玄奘三蔵が生涯旅の供をさせていた人物であり、初代玄奘三蔵の死を見届けたのも孫悟空である。
初代玄奘三蔵が若き頃を孫悟空と過ごした中国長安の寺院では、孫悟空は初代の“稚児”であったとの噂もあった。
その真意は不明である。
初代玄奘三蔵の死後、孫悟空の行方は不明。
1500年以上経った現在でも孫悟空の目撃情報は出てくるが、どれも信憑性に欠ける。



 
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