『ANGEL and DEVIL』

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目の前の悪魔の手には、鋭い刃のついた錫杖。
鋭い気が自分に向けられているのは、明白なこと。

「………兄のような側近がいると聞いていたが、それはテメェのことだったのか」
「お前に軽々しく悟空のことを口にしてほしくねぇな。あんたと悟空には、どうあっても離れてもらう」

チャキっという音を鳴らし、悟浄の握る錫杖が三蔵に向けて構えられる。

「貴様に干渉される筋合いはねぇな」
「そう言ってられんのも今のうちだぜ。俺は別に、あんたに何があっても関係ないからよっ!!」

錫杖の先端に付けられた三日月形の刃が、三蔵に向かって放たれる。
三蔵の手の平に光が集められ、そして。

――ガウンッ!!

三蔵に向かっていた刃は、一発の銃弾と共に軌道を変えられて再び錫杖の先端へと戻っていった。
三蔵の手には、銀に鈍く輝く拳銃が握られている。

「……そうこなくっちゃな。これで心置きなくヤり合えるってわけだ」

研ぎ澄まされた刃が、太陽の光を反射させる。
その刃には、悟浄に向かって銃を突きつける三蔵の姿が映されていた。







悟空は木の幹に座り込む八戒を見下ろしていた。
八戒も悟空を見上げ、真っ直ぐな瞳を悟空に向けている。

「……天界一の結界術師は綺麗な緑色の目をしてるって聞いてたけど……それってあんたのことみたいだね」
「魔界の次期サタン様にまで噂が届いていたとは光栄ですね。それなら話は早いです。貴方の選択肢はこの場を退くか、それとも僕を殺して結界を解くか……」

悟空に挑むような緑色のキレイな瞳。
少しだけ赤い色のついた、白い翼。
簡単に『殺す』と口にする天使は、どこまでも気丈で。
きっとこんな出会いでなければ、自分はこの天使を好きになっていただろう。
悟空は自分の思考に苦笑を漏らすと、再び八戒から視線を外して結界に向き合った。

「確か、八戒…っていったよね。八戒はさ、どうして俺が次期サタン継承者になったと思う?」

突然の悟空の問いに八戒は答えを窮するが、しばらくの沈黙の後に口を開いた。

「……第一に、現サタンの血を引いていることでしょう。現サタンの子供は貴方一人としか聞いていませんし。統べるために必要な強さや知識は、後からどうにでもなりますからね」

率直な八戒の言葉に、悟空は僅かに嘲笑するような笑みを浮かべた。
それは八戒に向けられたものでなく、自分自身に向けられたもの。

「特別に教えてあげる。………サタンの子供って、俺以外にも沢山いるんだよ。公表されてるのが俺ってだけで、魔界の継承者候補は沢山いたってわけ。それに、俺が公表されたのもほぼ俺に継承が決まった後だし」

悟空の口から語られた事実に、八戒は言葉を失った。
歴代のサタンには、子供は一人しか生すことが許されない。
それは、不毛な継承争いを避けるため。

「天界には知られてないけど、魔界の上層部では結構有名な話だよ。だから、別に俺一人が候補ってわけじゃなかったし」
「では……なぜ貴方が継承者に?」

八戒の問いに答えることなく、悟空は下ろしていた両手を少しだけ持ち上げてその手を緩く握り締めた。
次第に、悟空の両手に光が現れる。

「決まってるじゃん。サタン子供の中で、俺が一番強かったからだよ」

光の集まった両手を、結界に向かって突き立てた。

――バチバチッ!!

触れる悟空の両手に結界が反応して、鋭い光が結界から生まれる。

「なっ!?そんなことをしたら両手が壊れてしまいますよ!!早く離れなさい!!」

八戒の言葉を聞き入れることはなく、悟空の両手はさらに結界の深くに押し込まれる。

「……さっきの続きだけど、サタンっていうのは敵が多いんだよ。信じていた側近がいつ寝返るかわかんないし、自分の護衛が襲ってくる可能性だってある」

光が集まる悟空の両手が、結界の中の何かを掴む。
それを抉じ開けるように両手に力を込めると、未だに鋭い光を放つ結界がぐにゃりと歪んだ。

「だから、サタンに求められるのは力。……魔界の誰よりも強い力」

フッと、結界の歪みが消える。
それと共に、先程まで激しい音を伴って放たれていた光もその姿を消した。

――バリンッ!!

まるでガラスを突き破ったような音が、音のなかった空間に鋭く響いた。
すぅっと、空気が晴れていく。
悟空の目の前に、結界の姿はなかった。

「だから、俺に生半可な力は通用しないんだよ」

八戒から覗けるのは、黒い翼を広げる一人の悪魔の後ろ姿。
その背は、サタンの名を超越した強さをもっていた。


 
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