Short novels

□Borderline Age.23
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――カシャン

リボルバーを元に戻す音が、戦闘の終わりを告げる。
三人の周りには、すでに事切れた妖怪たちが山のように折り重なっていた。

「ようやく終わったか」
「そうですね。毎回数だけは沢山いるようで……」

そう話すのは悟浄と八戒。
雑魚ばかりだが、さすがにかなりの団体で来られると体力を消耗するのは避けられない。
悟浄は仕事後の一服とばかりに、ズボンのポケットからハイライトを取り出して火を点けた。
一息肺に煙を吸い込んだところで、悟浄はここにいない存在に気付いた。

「あれ?そういえば、小猿ちゃんはドコ行った?」
「そういえば……。途中から姿が見えなかったように思うんですが」
「まじか〜?また妖怪追いかけて迷ってんじゃないの?」

そう言いながら視線を向けるのは、目の前に広がる大きな森。
その森の先には、本日の目的地である小さな町がある。

「んで、三蔵サマ。どうすんの?」

煙草を銜えながら話しかけるのは、銃を懐に仕舞い込んだ三蔵。
一応は、この一行の責任者的男だ。
悟浄はどこか楽しげに、三蔵の返事を待っている。

「…………迷子の面倒まで見切れるか。目的地は知ってるんだ。いざとなったらそこまで来るだろう」
「悟空が森の中で迷っていたらどうするんですか?」
「腹減ったら自力で町まで来るだろう。ほおっておけ」

そこまで言うと、三蔵は悟浄同様に懐から煙草を取り出して吸い始めた。
そんな三蔵の様子を少し呆れがちに見ていた八戒だったが、ヤレヤレといった感じに肩を竦めた。
森の中を闇雲に探すよりも、結局は一つの場所で待っていたほうが効率がよい。

「………結局、悟空のことを一番わかっているのは三蔵なんですよね」

三蔵には聞こえないように、小さな声で悟浄に言葉を掛ける。

「まあそうだろうな。なんせ8年も寝床一緒にしてるんだ、イヤでも相手のことなんざわかってくるだろ」
「いえ、そういうのもあるんですが……。何ていうか……悟空自身をわかってあげてるんですよね」
「そりゃどういう意味………」

ふいに、悟浄の言葉が途切れる。
それは八戒や三蔵も同様。
三人が一同に、目の前にある森の入り口へと視線を向けている。

「………三蔵」
「あぁ」

声を掛けたのは八戒。
その意識は、森の奥に注がれている。
だんだんと近付いてくる、その気配に。

「………もしかして、悟空じゃねぇのか?」
「……その可能性もありますね。町の人かもしれませんし、妖怪かも……。とにかく、姿を見るまでは安心できませんね」

そう話す間にも、だんだんと近くなる距離。
そして、その気配の人物の姿がぼんやりと見えてくる。



森の影から見えてくる、人影。
肩を過ぎたくらいの髪を下ろした、その姿。
どこか走り気味に近付いてくるその人物は、日頃からよく見知った者だった。



そして、森を抜けて太陽の日差しを浴び、鮮明に見えたその姿は。



「ご、」
「八戒に悟浄っ!?何で二人ともこんなところにいるんだよっ」

声を掛ける前に、現れた人物の驚きの声にそれは掻き消された。
その人物は、この場にいない孫悟空その人。
けれども。

「…………あ、れ?」

素っ頓狂な声を上げたのは悟浄。
その隣では八戒と三蔵までが、目を丸くして現れた悟空を凝視している。

「うっわ、なつかし〜!!元気してた?何でここに……いる…の………」

悟空の言葉尻が、だんだん小さくなっていった。
この場の空気はどこか変なのだと、感じ取っているようだ。
そして、困惑気味に三人を見つめる。
三人の姿を一人一人見た後に視線が止まったのは、三蔵の前。

「なんで三蔵……、法衣………なんだ?」

当たり前すぎることを口に出す悟空に、目の前の三蔵の瞳が険しくなる。
三人とも、心中では同じ結論を出していた。


目の前の悟空は、どこかおかしい。


「…………三蔵」

悟空が口を開く。
そして視線の先にいる三蔵に少しだけ近付いて、その顔を見つめた。
そして、次に発した言葉のせいで。



「若返った?」



「こんのバカ猿がーッ!!!」

――スパーン

射程距離外にも関わらずなぜか頭上にヒットしたハリセンに、その場にうずくまって痛みに耐えるのであった。




 
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