Short novels
□天花粉
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「う〜、かゆい〜」
そういうぼやき声が、カチャリという扉が開く音と共に聞こえてきた。
ベッドに腰掛けて新聞を読んでいた三蔵は、その声が聞こえてきた部屋の扉へと視線を向ける。
そこには、なにやら首の後ろ辺りを掻きながら眉を顰める悟空の姿があった。
「何やってんだ?オマエは」
「う〜、さんぞ〜。首の後ろ、めっちゃ痒いんだって」
首からタオルを下げた、悟空の姿。
先ほど風呂に入れと指示したとおりに入ってきたのはいいのだが、腰を越す長い髪からはポタリポタリと幾つもの水滴が落ちてきている。
濡れた髪を邪魔くさそうにしながらも首の後ろを掻く悟空の姿に、三蔵は溜め息を一つ零して持っていた新聞を折りたたんだ。
それをベッドの上に置くと、まだ扉の近くにいる悟空を手招きする。
「なになに?」
まるで子犬よろしく、テケテケと三蔵に近付いていく悟空。
その余りにも子供っぽい行動に三蔵は溜め息をつきながらも、すぐ側まで来た悟空を今度はひっくり返した。
「ん、」
首から下がっているタオルを取って、その長い髪をワシャワシャと拭いてやる。
本当は自分で拭かせるべきだとは思うのだが、悟空自身にやらせていてはいつまで経っても終わらない。
仕舞いには寝室に幾つもの水滴を落として、濡れた髪のままベッドに潜り込もうとするのだ。
三蔵が拭いてしまったほうが、悟空的にも三蔵的にも後々のテマが省けるというのが結論である。
「ん〜………」
髪を拭いている間も、悟空はどこかモゾモゾと体を動かしている。
おそらく、先ほど言っていた首の後ろの痒みがまだ治まらないのだろう。
三蔵が髪を拭いているから、掻くに掻けないのである。
ようやく大まかに髪が乾いたところで、悟空の首元の髪を左右に分けて首の後ろを見てやった。
そこには、幾つかの赤い斑点。
所謂、汗疹である。
「なぁ三蔵。首の後ろ、どうなってんの?めっちゃ痒い」
「汗疹だな」
「あせも……って、なに?」
三蔵の手が首から離れると、悟空はすぐさま痒い部分をまた掻き出した。
掻けば掻くほど痒くなるというのは、悟空の頭では微塵も思わないことだろう。
痒みをどうにか治めようと、必死に掻いている。
「いわゆる湿疹だな。汗をかいてそのまま放っておいたりすると出来るもんだ」
「それはいいんだけどさ……どうやってこのアセモっての取るんだ?」
まだ右手で首の後ろを掻く姿は、どこか間の抜けたもの。
このまま放っておくと一生掻き続けそうな気がして、三蔵はベッドから重い腰を上げた。