Short novels

□キス
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唇が離れて、またすぐに塞がれる。
ついばむようなキスはなんだかくすぐったくて、俺は思わずちょっと笑ってしまう。

「笑ってんじゃねぇよ」

至近距離でそう言う三蔵も、ちょっと笑っていて。
ぼやけるくらいの距離は、輪郭なんてわからないし、他のものはぜんぜん見えない。
ただわかるのは、その人の色だけ。

「三蔵さ、キスしたら俺の機嫌よくなるって思ってない?」

今だってそう。
構ってくれない三蔵に、ベッドの上で枕を抱えてむすっとしてたら。
ふいに、椅子に座っていた三蔵がベッドに近付いてきて、腕の中の枕を取り上げられて。

キスされた。

それは、スローモーションのようにゆっくりとした動き。
避けようと思えば簡単にできたし、逃げることだって出来た。

三蔵がベッドに上がってきたせいで、ギシリとベッドが唸る。
取り上げられた枕は三蔵の足元に転がっていて。
頬の辺りから、髪を梳くように手が頭の後ろに回される。
少しだけ頭を上に傾けさせられて。

(あ、また)

きっと、三蔵の癖。
キスする前に、俺の瞳を覗き込む。
いつもは好き勝手に何でもしてるくせに、こんな時ばっかりは了解をとるかのようにじっと目を見てくる。

(ずりぃよな……)

そんな目で見られて、断れるはずがない。
ゆっくりと目を瞑ると、唇にヌクモリが下りてきた。

そして、さっきの質問。





「違うのか?」

まだ、距離は離れないまま。
お互いの鼻と鼻がくっつきそうなくらいの、至近距離。
俺は、三蔵の首に腕を回して。

「違わない」

答えて、とびっきり甘いキスを贈った。




END.

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