Short novels

□おはよう
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目蓋に差し込む朝の光に、ふと意識が浮上する。

(あったかいな……)

春も半ばに差し掛かる季節。
太陽の光は、部屋に眩しさと暖かさを運んでいる。
その眩しさにゆっくりと重い目蓋を持ち上げると、すぐヨコには愛しい人の姿があった。

昨夜、シャワーを浴びた後は何も着ずに眠りについたため、自分も三蔵も裸のままだ。
三蔵はシーツから惜しげもなく裸の上半身を起こし、火の点る煙草をその口に銜えている。
窓から差し込む光が三蔵を照らし出して、こちら側に影を作っていた。

(さんぞ……キレイ)

朝日に透き通るような金糸の髪も、男にしては白いその肌も。
普段は法衣を着ているせいでわからない筋肉質な体も、煙草を銜える形のよい唇も。

すべてがキレイで。
本当にこんなキレイな人が存在するのかと、疑ってしまうくらい。

でも、確かに三蔵はここにいる。
それが、すごく嬉しい。

そんなことを思っていると、ふいに三蔵が顔をこちらに向けて紫の瞳で見下ろしてきた。

「おはよ」

視線が合って朝の挨拶をする。
すると三蔵も「あぁ」とだけ返事を返してきた。
いつも素っ気ない返事だけど、三蔵は嫌いな相手には返事はおろか、その存在さえも無視するような態度をとるから。

だから、これはトクベツだって思っていいんだよな?

まだ寝ぼけた頭でぼおっとしてたら、三蔵の大きな手がくしゃくしゃと頭を撫でてきた。
たったそれだけのことでとてつもなく嬉しくなってしまうのは、ちょっと悔しい。

「朝の挨拶は“おはよう”だろ?」

三蔵を見上げてちょっと意地悪く言ってやれば、三蔵はちょっとだけ驚いた顔をしたけど。
すぐにその顔にはどこか愉しげな笑みが浮かんだ。

ちょっとした言葉遊び。
だからこそ、三蔵も俺も対等。

「たまにはちゃんと挨拶してみれば?」

からかうように言ってやれば、煙草を指に挟んだ三蔵が顔を耳元に近づけてきて。


「………おはよう」


やっぱにあわねぇ。


その言葉は、今日初めてのキスに奪われてしまった。



END.

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