『Everlasting』

□3日前
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次の日も、見張りは玄奘が来た。
パイプ椅子に腰掛けて、昨日の続きなのか、また本を読み出した。
しかも今までのようにマスクを付けておらず、格好すら重々しいものから普通のズボンにワイシャツといった軽装に変わっている。
見張りにも関わらず悟空には視線を向けず、ずっと本を読み続ける。
金色の髪も端正な顔も惜しげもなく晒している姿に、なぜか気になって悟空が恐る恐る声を掛けた。

「……………マスク、は……いいのか?」

普通なら、決して聞かないだろう。
自分はこの男たちにここに閉じ込められ、こんな扱いを受けているのだ。
それでも声を掛けたのは、単純に誰かと言葉を交わしたかったからかもしれない。
声を掛けられた玄奘は本から視線を外して、悟空のほうへと顔を向ける。
それでも顔を向けるだけで、返事を返そうとしない。
そのまま再び悟空から視線を外した姿を見ると、なんだか居た堪れない感じがしてしまう。
やはり声なんて掛けるのではなかったと、悟空が膝を抱えて蹲まる。

「…………べつに、一度見られたなら関係ない」

悟空に視線を向けられないまま返された返事に、悟空は俯いていた顔をバッと上げた。
玄奘は相変わらず本に視線を落としている。
それでも返ってきた返事に、こんな状況なのにどこか顔が緩まってしまう。

「…………なあ、アンタはこの国の人?」
「………………」
「革命には………反対、なんだ」
「……………さあな」

お互いに視線を合わせないままの会話。
悟空はその返事にズボンの膝をぎゅっと握り締め、膝を強く抱える。


すべての人が、革命を望んでいるわけではない。
それは、革命運動を始めた当初からわかっていたこと。
そうでなければ、ここまでたどり着くのに何年もかかることはなかっただろう。


「…………アンタさ、東のほう出身だろ?」

悟空が言った瞬間、玄奘は本から顔を上げて驚いた表情で悟空を見つめた。

「アタリ、だろ?その瞳の色とか話し方にちょっとクセあるの、あっちのほうだもんな」
「………………」
「こんなガキだけど、この国のことはわかってるつもりだよ。東は……特に、貧しいところだよな………」
「それが……どうしたって言うんだ」
「…………変わるよ、そこも」

鉄格子を挟んで、金の瞳と紫の瞳が視線を合わせる。

「変わるんだ、この国は。………この国は、その力を持っている。もしも、この革命がダメになっても…………それでも必ず、変わる力がある」

悟空の瞳は、まっすぐに玄奘を見つめる。
玄奘も目を逸らすことなく、悟空のほうへと顔を向けたままだった。

「…………戯言、だな」

玄奘の鋭い瞳が、悟空を射抜く。
けれども悟空も引くことはなく、ことさら強い瞳を玄奘へと向けた。

「変えようとしなかったら、何も変わらない。…………アンタも、わかってんだろ?」

そこまで言い切ると、目の前の玄奘は忌々しそうに舌打ちを鳴らし、ガタリとパイプ椅子から立ち上がった。

「それでもテメェは、そこでは何も出来ないんだ。3日後の日にテメェがいなけりゃあ、革命は起こらない。そうすりゃあ革命派の動きは止まる。…………何も、変わらないんだよ」

それだけ言い残して、玄奘は足早に悟空の目の前から姿を消した。
バタンと叩きつけるように、部屋を結ぶ扉が閉められる。



悟空は牢屋の中、知らず詰めていた息をほうっと吐き出した。
そのまま壁に背中を凭れさせて、灰色一色の面白みのない天井を見上げる。

「あと、3日か…………」

呟いて、瞳を閉じる。
両手をぎゅっと握ると、この前傷付けた左腕の傷が痛んだ。


残り、3日。





 
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