『Everlasting』

□4月5日 後編
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「ハァ、ハァ、ハァ…………」

息が切れて、心臓が爆発しそうなくらい。
ドクドクと、体全体が脈打っている。
隣に座り込んだ玄奘も、荒い息を弾ませながら額から汗を流していた。





収容所の建物から2人で脱出して、道なき道を走った。
砂利で敷き詰められた道に足をとられながらも、そのたびに強く引く腕が体を支えてくれた。
交わす言葉は一つもない。
ただ、ガムシャラに走った。
途中にあった古びた小屋に、体を休めるために入り込んだ。





「はぁ………」

最後に溜め息交じりに息を吐いて、隣で同じように床に座り込んでいる玄奘に視線を向けた。
玄奘は汗が伝う前髪を鬱陶しいとばかりにかき上げて、汗のついた手を振るった。
そして、紫の瞳がこちらに向く。
悟空は固く結んでいた口を、開いた。

「なんで………アンタ、俺を…………」
「…………その前に、聞く。お前は………誰だ?」

その言葉に、悟空はビクンと体を揺らした。
不安げな瞳が、玄奘に注がれる。

「…………別に、言いたくないならいい」

そう言って、玄奘は壁に凭れていた背中により体重をかけた。
金髪が揺れて、壁に頭がコツリと凭れる。
悟空は同じように壁に背中をつけて、蹲るように膝を抱えた。
上はワイシャツだけで、左腕に巻かれている包帯が砂埃で少し茶色くなっている。
何の音も聞こえない、古ぼけた木のにおいだけがわかる場所で、二人で無言のままでいた。





「…………俺は、さ」

悟空が、小さな声を出す。

「俺は、斉天の、斉天大聖の…………腹違いの……弟、なんだ」

その言葉に、天井を見上げていた玄奘の顔が悟空に向いた。
悟空は蹲ったまま、自分のつま先だけを見つめて言葉を続ける。

「生まれたときから身内は母さんだけで……父親が誰かなんて、知らなかった。それでも十分幸せだったし、貧しかったけど………笑い合ってた」

抱える膝を、ぎゅっと抱き締める。

「でも、母さんが……この国の兵士に、殺されたんだ。母さんさ、すっごく綺麗な人で、それで兵士たちが目をつけて………。いきなり家にやってきて、母さんを犯そうとしたんだ。何人もで。でも母さんは抵抗してその拍子に兵士の一人を切りつけてさ。…………母さん、殺されたんだ」

目の前で殺された、母親の姿。
それが、今でも鮮明に思い出せる。

「それが……俺が10歳くらいのときかな。母さんが殺された後、家にいた俺も殺されそうになった。でもその時に、助けに来てくれた人がいたんだ。………それが、その時から反国活動していた人たちだった。今の革命派の、主要メンバーだよ」

そしてその時から、悟空は革命派のメンバーとして加わった。
最初は母親を殺された憎しみの感情を、国にぶつけるだけたった。
けれども革命派と行動を共にしていくうちに、この国の状況がだんだんわかってきた。
貧しい人々、重税で苦しむ人々、悟空と同じように、親を殺された子供たち。
憎しみの感情だけではなく、そんな人たちを救いたいという想いが、悟空の中で生まれていった。

そして革命派として行動し始めてから、5年の月日が経った頃。






 
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