Short novels
□Bottom line
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走る、走る、走る。
景色が目まぐるしく流れる。
地面を踏みしめる。
枯れ葉が、クシャリと音を立てる。
奥に見えてきた、光の出口。
さあ、出口はどっち?
「あっ!!」
光をくぐった先の景色に見えたのは、三人の姿。
たった一日しか離れていなかったのに妙に懐かしいその姿に、悟空は大きな声を上げて駆け寄っていった。
「三蔵、八戒、悟浄っ!!」
その声に気付いた三人は、同時に悟空へと振り返った。
「悟空っ!」
真っ先のその名前を口にしたのは八戒。
そして悟浄はやれやれといった風に木の幹から腰を上げるが、三蔵はまだ幹から腰を上げようとはしない。
悟空はぶんぶんと大きく手を振りながら、ようやく三人のもとへと帰ってきた。
「ただいま、みんな。遅くなってごめんなっ!」
両手を目の前でパンッと叩いて、上目遣いに八戒と悟浄を見上げる。
その行動はまさに自分たちの知る悟空で、八戒と悟浄は安堵の溜め息をついた。
「お猿ちゃんはどこをどう迷ってたのかな?」
悟浄が悟空の髪に手を添えて、ワシャワシャと掻き混ぜる。
「うわっ、やめろよ悟浄っ!!」
そう言って悟浄の手を払おうとするが、なかなかその手は離れることなく尚更悟空の髪を掻き混ぜる。
そんないつもの様子に、八戒は知らず顔を緩ませていた。
悟浄も同じらしく、どこか楽しげな表情が浮かんでいる。
「無事でよかったですよ。本当にどこに行っていたんですか?」
あえてこちらであった出来事は伝えずに、悟空にあった出来事だけ聞く。
もしも「未来から悟空が来ていた」なんて不用意に言ってしまえば、悟空が戸惑ってしまうかもしれないからだ。
けれども、そんな八戒の気遣いは無駄に終わった。
「ん、とな……。なんか、未来に行ってた」
――ピシリ
八戒と悟浄の周りの空気が固まったように思えるのは、気のせいではないだろう。
「へ、え……未来に行っていたんですか。それは楽しかったですね」
「そ、そうそう!未来になんて滅多に行けるもんじゃないしな!」
どこかうろたえた二人の様子に悟空が首を傾げる。
「なんかあったの?例えば、こっちに」
「何でもねぇって!!おら、お前は三蔵んとこ行ってこいって!」
「そうそう!まだ三蔵にただいまを言ってないですよね!」
そう言い包められ、悟浄に至っては悟空の背後に回り三蔵の近くまで背中を押す始末である。
わけのわからないまま悟浄に背中を押された悟空は、目の前の三蔵を見下ろす。
三蔵は木の幹にまだ座ったまま、目の前に立つ悟空を見上げる。
そんな三蔵に、悟空は笑みを向けた。
「三蔵、ただいま!」
「…………あぁ」
一言だけの返事。
いつもの三蔵の返事に、悟空は嬉しくなって更に微笑んだ。
「ナニ笑ってやがる」
「へっへ〜、なんか嬉しくってさ」
そう言ってへへっと笑う悟空に、三蔵はどこか呆れた顔をする。
そしてようやく木の幹から立ち上がって、いつものように悟空を見下ろした。
じっと見下ろす三蔵に、悟空は不思議そうに三蔵を見上げる。