Short novels

□想いのカケラ
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外は好き。
たくさんの動物がいて、たくさんの植物がいて。
太陽は暖かいし、雨は冷たいけれど大地を潤してくれるから。

だから、外は好き。





「あっ!」

寺院から少し離れた裏山。
空は晴天で、雲一つ見当たらない。
春先の暖かな陽気に誘われてここに来た悟空は、裏山の一部を覆う黄色の花たちに驚きの声を上げた。

「この前来たときは、何にもなかったのに」

その黄色に近付いて手前まで来ると、しゃがみ込んで黄色の花をじっと見つめた。
花の種類なんてものはわからないけれど、これがとてもキレイだということはわかる。
緩やかな風になびいて、黄色の花びらがそよそよと揺れる。
しゃがみ込んでいた場所から立ち上がると、目の前に広がる花畑はまるで一面に黄色の絨毯が敷き詰められているようだった。
風の赴くまま、黄色の絨毯が風に流れる。

「キレー………」

ぽつり呟くと、花たちはまるでそれを喜ぶかのようにますます風の流れに乗る。
ザァッと流れる風に、悟空の長い茶色の髪も同じようになびいていた。

「これ、三蔵にも見せたいな」

もう一度花たちの前にしゃがみ込んで、その中の一輪にそっと手を触れる。
三蔵は今、きっと不機嫌な顔をして書類と睨めっこしているのだろう。
それでも書類を投げ出そうとしないところは、きっと性格なんだ。
あんがい几帳面だからな、と思いながらその様子を思い浮かべると、悟空の口元に自然と柔らかい笑みが浮かぶ。
その几帳面な人は、きっとここまでは来てくれないだろうから。

「………ごめんな、キレイに咲いてるのに」

手を触れている花にそう言うと、その花を茎からポキリと折り取った。
手の中に納まった一輪の花は、変わらず風になびいている。
その様子が何だか「いいよ」と言ってくれているみたいで、悟空は少しだけ笑みを浮かべた。
同じように幾本かの花を折り取ると、悟空の手の中には小さな花畑が生まれる。
小さな花畑を手に、悟空は来た道を逆に辿っていった。





花は好き。
大地に堂々と咲いて、季節の廻りとともに何度でも大地に芽吹く。
キレイに咲いて、見ている人をホッとさせてくれるから。

だから、花は好き。




 
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