裏小説

13日の金曜日(上一)
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11月の夜。月が澄んで綺麗だ。吐く息は指先は赤くかじかむが、その全てを圧倒する。木枯らしが湯に濡れた髪から急速に熱を奪っていく。
「風邪ひくぞ」
「あァ」
湯上がりの体から白く透けた湯気を立ち上らせ、ベランダに蜃気楼の如く佇んでいた一方通行は、上条に呼ばれ室内に入った。
暖房の効いた室内は外との気温差が激しい。窓を閉め鍵をかけた一方通行は小さくくしゃみをした。
「ほらみろ」
子供を叱る母親みたいに言いう上条の持つタオルが、一方通行の髪から優しく丁寧に水分を吸い取っていく。まるで猫みたいだな。じっとされるがまま髪を拭かれる一方通行に、上条の口が綻んだ。
「何笑ってンだよ」
「別にー」
「腹の立つ野郎ォだな」
「嫌いになったか?」
「死ね」
冷たい目線で上条を一睨み、一方通行は上条の手からタオルを奪うと乱暴に髪を掻き混ぜる。
そんなにしたら髪が痛む、と上条は思うがどうせ言っても本人は聞かないだろう。一方通行が開けっ放しにしていたカーテンを何時もより少し乱暴に閉める。
「上条ォ」
「なんだ?」
「DVD借りよう。DVD」
何が面白いのか、背後で日めくりカレンダーをぺらぺらめくっていた一方通行が、唐突に提案した。
「なんでまた」
「今日は13日の金曜日だ」
素敵に不吉な単語の並びに、カレンダーの11月13日のゴシック体文字を指差し嬉々とする一方通行とは真逆、上条はわぁ、と小さく呟いた。もしかしたら過去、同じ13日の金曜日に嫌な出来事に遭ったのかもしれない。
「じゃー俺借りにいってくるわ」
湿ったタオルを上条に投げて渡すと、上条の上着を適当に引っ掴み、上条宅のサンダルを履いてドアノブに手をかける一方通行。その細い肩を上条の手が掴む。
「俺が行く。風邪をひかれちゃかなわないからな」
「ウィルスなンざ反射すりゃ済む話しだろォが」
「そういう問題じゃありません」
渋る一方通行から上着を剥ぎ取り、上条は月の見守る街に出た。パジャマ姿の無防備スタイルな一方通行を街に出すのは危険すぎる。例えこれで自身が湯冷めし風邪をひいたとしても、体調不良と引き換えに守りたいものを守れるならよしとしよう。
上条の口から白い息と同時に盛大なくしゃみが出た。
「帰ったら一方通行に温めてもらお」















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