小説(ラハフロ以外)

□Green Road
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『Green Road』


これは、フロンが魔界へやって来る前―――・・・
まだ天界で天使見習いとしての訓練を積んでいた頃のお話。


ある晴れた日の暖かな午後、フロンは大天使ラミントンに招かれ、宮殿へと続く長い渡り廊下を歩いていた。
廊下に沿って植えられた木々は日光に当たってキラキラと輝き、頬をなでる風は暖かく気持ち良かった。
フロンは、ここを通るのが好きだった。
本来ならば、フロンのような見習い天使は大天使に会うどころか、宮殿に入ることさえ許されない。
だがこのように大天使ラミントンより直々にフロンが招待されることは珍しいことではなく、大天使の意図は分からなかったが、フロンに断る理由が見つかるはずもなく、むしろ尊敬する大天使さまに会えるのだから、フロンにとっては喜ばしいことであった。

フロンは迷うことなく宮殿の中を進み、慣れた手つきで、ラミントンの自室の扉をノックした。
待つこともなく扉は開かれ、穏やかな表情のラミントンがフロンを部屋の中へと招き入れた。
いつものソファにいつものように座ると、いつもとは違うものが部屋の中に置かれているのに気付いた。
それは黄金で装飾された台に、巨大な水晶が埋め込まれていた。
「大天使さま。これはなんですか?」
フロンの問いかけに、ラミントンは水晶に近づき、
「今日はフロンに素敵なものを見せてあげようと思ってね」
と、水晶に両の掌をかざした。
とたんに、水晶の中にフロンが今まで見たこともないような風景が浮かび上がった。
フロンは驚いて目を見開いた。
そこには、ごつごつとした岩肌と、その割れ目を縫って流れる溶岩などが映っていた。
空には火の粉が舞っており、見ているだけでも暑さが伝わってきそうだ。
「これは、魔界というところだよ」
ラミントンが優しく教える。
「魔界・・・」
天界とはあまりにも違う魔界の殺伐とした景色に、フロンは目が釘付けになった。
ラミントンが手をかざすたびに、水晶の中の景色はその姿を変えた。
白銀の世界―――・・・固く閉ざされた氷と、その上を吹き荒れるブリザード。
又は、奇妙な形に捩れた木々を持つ不気味な森・・・。
どれもメルヘンチックな天界とは程遠い、フロンにとっては目を奪われる光景だった。
一生懸命水晶の中を覗き込むフロンに、ラミントンは、
「それから・・・これを、よくご覧」
そういって、再び水晶に手をかざす。
水晶の中に映ったのは、お城だった。
「魔王城だよ。・・・魔界の王が住んでいるお城だ」
「魔王・・・」
ラミントンの口調はどこか寂しげだったが、フロンは見たことのない魔界の様子に目を奪われていた為、それに気付かなかった。
「大天使さま、ここには悪魔と呼ばれる人たちが住んでいるのですよね?」
「そうだよ」
「先輩の天使さまたちは、悪魔は悪い存在だっておっしゃってましたけど、本当なんですか?」
「・・・。フロンは、どう思うんだい?」
「え・・・。ええと・・・。会ったことないから、分からないです・・・」
フロンは恥ずかしそうにそう言った。
ラミントンは、そんなフロンに優しく微笑んだ。
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