小説(ラハフロ以外)

□決意
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「少し、歩こうか」

と、フロンを誘い出したのは、午後のお茶も終わった穏やかな時間。
以前は、忙しい仕事の合間をぬって、しばしば誘っていたのだが、
ここのところ多忙を極め、声を掛けることすら出来ずにいた。
そんな折の、久しぶりの誘いだった。


フロンはいつものように二つ返事でOKし、ラミントンの隣をひょこひょこと歩いている。

天界はいつもの通り、晴天。
風も穏やかで、暖かな日差しが差し込んでいた。

だが、ラミントンの心が軽くなっているのは、気候のせいだけではなかった。


「大天使さま・・・?」

声を掛けられて、自分がフロンを見つめていたことに気付いた。
悟られないように、すぐにいつもの穏やかな表情を浮かべる。

「ああ、なんでもないよ。少し疲れているのかな」
「最近、とてもお忙しそうですね。大丈夫ですか?」

フロンはラミントンの心中には気付かないようで、心配そうにラミントンを見上げた。
それに、にっこりと笑顔を返す。

「心配してくれてありがとう、フロン」

そっと、フロンの頭に手を置いた。
それは、ラミントンの掌に、すっぽりと収まってしまう。


小さくて、かわいいフロン。
幼い頃からずっと見守ってきたこの子を、
わたしは辛い試練に向かわせなければならない・・・。


ラミントンは、古い友人が訪ねて来た日のことを思い浮かべた。



「あなたの力が必要なのですよ」
「それはかまいません。ただ・・・」
「あの子たちのことが心配ですか?」
「ええ・・・」

「それはわたしも同じですよ。
何も知らないあの子たちに、辛い試練を与えることになります・・・。
しかし、このままでは魔界も天界も・・・」

「・・・わかっています。もう少し、時間をくれますか」



ラミントンは、隣にいるフロンに気づかれないよう、そっとため息をついた。

時間など、いくらあっても、足りるはずがない。
この子を、フロンを辛い試練にさらすなど。
しかし、大天使としての立場を考えると、もはやこの方法しかないのだ・・・。
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