小説(ラハフロ以外)

□きっとあなたは来ない
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怖くて、縮み上がった。
首の後ろがチリチリして、警報を鳴らしている。
使えないと分かっていても、槍を握りしめた。


しかし、背後にいたのは・・・。

「殿下・・・どうして・・・?」

先に行ったとばかり思っていた、殿下の姿があった。
握り締めた剣には血が滲み、傷だらけの姿を見て、何故だか泣きそうになった。


あたしのために戻ってきてくれた。
そんなに、傷だらけになりながら・・。


期待と不安が入り混じった瞳で、殿下を見つめた。

「あたしが、腹心の部下だからですか?」
「そうだ」

予想通りの答え。
目の前が真っ暗になる。
足元から冷たいものが這い上がってくる感覚。


「だが・・・それだけじゃない」
「え?」
「お前は、オレさまの・・・大切な女だからな」

意外な殿下の言葉に、目を見開いた。
信じられない思いで見つめていると、心なしか頬を染めた殿下が、視線を逸らす。

とくん、とあたしの胸が小さく鳴った。
顔が火照ってくるのが、止められない。
甘い空気に慣れなくて、繋ぐ言葉も見つからなかった。

剣をしまい、殿下があたしを抱きかかえても、恥ずかしくて何も言えなかった。
心臓の音が煩いほど身体中に響いている。
殿下に聞こえないか心配なくらい。

どうしていいから分からず、赤くなった顔を隠すように、殿下の胸に押し付けた。
火照った頬に伝わる、心臓の音で、殿下も緊張していることが分かった。

「殿下・・・、もしかして、照れてます?」

「・・・っ!! バ、バカものっ!そういうことは、口に出して言うな!!」

怒鳴られても、うれしいと感じてしまうあたしは、どうかしてる。
自然と緩んでしまう口元を押さえようとしないで、
あたしはますます殿下に身体を寄せた。

「殿下、あたし・・・殿下のこと、好きです」

殿下の肩が震えた。
怖くて、表情を見ることができない。
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