CP ーotherー
□どきどきフェノメノン
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「せん………ぱ」
腕の中で、吉田が小さい声で言う。
「吉田?起きたのか」
「森………し、たせん…」
吉田はほんの少しだけ開けた口から、ゆっくりと声を出す。どうやら寝言の様だ。
少し躯を放す。顔は火照っている。
「い…………」
そう苦しそうな声を上げると、閉じた眼の隙間から透明な光が膨らんだ。
思わず息を呑んだ。抱き締めた躯を、更に強く抱く。
涙が流れない様に。
「厭ぁ…………やだ………やだッ!」
甲高く叫ぶと、駄々を捏ねる様に暴れだした。
何を言っても聞こえないのは解っていたから、さっさと細い両脚を脚で押さえ、両手首を左手で掴んで動きを封じた。
少しだけ息が上がる。
「全く、寝ながらも迷惑な奴だ」
まあ、そこが気に入っているのだから文句が言えたものではないが。
頬に流れた涙は荒い息でコースを変えながら流れ落ちる。
「厭だ…………先ぱ……」
「……………どこにも………行かないで」
頭の中に、“最優先”と書かれた電光掲示板が現われ、次の行動を決定する。
頬の道筋を舌で伝い、発生元に唇を押し付ける。両目を処理すると、リピートし続ける口にキスをする。
熱を持った唇は容易く開き、舌を絡ませると空気を欲するのか、吉田の顔が一層赤くなる。
何でも良い、ただ抱き締めよう。厭という程、「俺は何処にも行かない」と囁いたって良い。同じ空気を吸って体温を共有して、吉田を安心させるのだ。
「んぅ……………ぁ……」
重なる口の隙間から声を上げ、吉田は眉を顰めた。
息苦しいのか。しかしそのままの姿勢を保つ。厭がる顔が見たかった。
だが、目を覚まされては詰まらない。舌を抜いてやると眉間の皺が取れる。
その代わりに、腕に力を込めて躯を密着させる。眠る吉田はゆったりと身を任す。
―――――少し、眠くなってきた。
吉田の呼吸が落ち着いてきた。
唇を離すと、吉田は一つ大きな息を吸って眠りに落ちた。
その安心しきった顔を見て、笑みが零れる。
今日は二人で京都を巡ろう。
厭だ離せ、と言われても手を繋いでいよう。ちなとの交替までずっと、離してやるもんか。
「……………す、き」
「ん?」
「せんぱ、い………」
また、ゆっくりとした声。
しかし声はそこで途切れて、寝息となって消える。
参った。
言われる事には慣れている。吉田にも慣れている。
だが、この状況は初めてだ。困惑する。
―――――これは、吉田にも体験してもらうか。
この、何とも言い難い瞬間を。
「お前に先手を取られるとはな」
さあ、眠りに就くとしよう。
久し振りに、目覚めるのが楽しみだ。
起きた灯里が、“よく眠れた”と言っていた理由。 ってあれ、これじゃあ普通起きちゃうよ!
多分僕は起きないな。