CP ーotherー

□恋人たちに5のお題
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(今…デッキに居たりすんのかな)


 トントン。


木の壁をそっと叩いてみる。


 トントン。



―――返事は、ない。



「…何やってんだ俺」


呟いて、自嘲する。


そもそも相手がそこにいる確証なんて無いのに。

どこかでそれに期待していた自分が馬鹿馬鹿しくなる。



空虚になりそうな心を誤魔化して、半分になっていた煙草を消した。


(もう寝るかぁー)


明日も早いし…と思って立ち上がった、その時。





 ―――――トントン。


「え…?」



 後ろから、壁を叩く音。


 ―――――トン、トン。






 返事が、きた。


胸が締め付けられたように苦しくなって、思わす壁に耳を押し当てる。



 トン、トン。



壁伝いに、振動。


壁の向こうから確かなぬくもりを感じた気がして。
逸る心を抑え、デッキに出た。










「…何、やってんだよ」


ドアを開けたすぐ向こう側で笑っていた彼に苦笑した。


「別に、何も。」


月明かりの中で浮かび上がる姿。

笑顔が、何故かどうしようもなく切なくて。



「お前こそ寂しそうな顔して…何やってんだよ」


 ふわり、と。

温かく包み込まれ、耳元で声が響く。


「――――別に、何も。」


腕を回し、その背に柔らかく爪を立てる。


「明日の仕込みだよ。お前らの為の」

「そりゃあ御苦労さん」

「おう。感謝しろ」

「してるぜ。物凄く」


そうやってまた笑うから。

 ――愛しさが、止まらない。


頭上の蒼白い球体に見せつけるみたいに。


狂おしいほどの感情を込めて、深く深く唇を重ねた。



      【02: fin.】
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