CP ーotherー

□19才
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「…んっ」


引き抜く時に彼が上げた声は、やけに名残惜しそうで。


「サンジ」


自分の下で荒い呼吸を必死に宥めている。
額に口付けし、その柔らかい髪を撫でる。
上気した頬、涙の跡が残る眼元。
何度も交わした口付けの所為で、唇は紅く濡れていた。


「…大丈夫か?」

「ん――――」


腕の中で、彼が小さく頷いて。
ごく自然に。引き寄せられる様に。


甘い引力に抗うこともせず、もう一度だけ深く口付けを交わした。







 何も知らなかった自分



 何もできなかった自分






 弱い自分自身が何より憎くて



 鏡に映る悔しさに歪んだその顔が何より嫌いで






 何も考えずにただ突っ走ってたあの頃の俺は












―――とうとう、19才になりました。









“クロアゲハチョウの様に 誇らしい羽根で飛びたい”







願っているだけじゃ何も変わらない。






 だから、






 誰よりも強く

 誰よりも強く






いつかあの高みへ辿り着く為に。






“くだらないって言わないで”







くだらない、なんて言わせない。



 この野望を笑うことは、彼女を馬鹿にすることと同じだから。







“そんな人生がいいの いいの…”



















* * *









 ―――満月、だった。



船は恒常的に小さく揺れている。
穏やかな黒い水面に月はためらいなくその光を降り注ぎ、もうひとつの自身を作り出す。
そして水面のドッペルゲンガーの放つ光は、船の表面にゆらゆらと網目模様を作り出していた。



海上レストランの手すりに肘をついて、紫煙を吹かす影がひとつ。
夜の冷たい空気に漂う煙は本物の月に少しだけ近付いて、消える。



 
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