オリジナル小説

□昔々のおはなし
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 森の中心にある太い木の枝に乗ると朱が先に家に入りました。
「ッヒィ!」
簡素なベッドに寝かされていた男は、上半身を起こして身じろいだがまだ動けないようで暴れることこそしなかったが、顔には恐怖の色が刻まれている。
男は、特に顔立ちが良い訳でもなく、背丈も鴉より10cm高いか高くないか位の小柄な青年だ。

「目が覚めたみたいね。怪我の手当ては一応しておいたから三日もすれば動けるようになる。右手は骨が折れてるから時間かかるけど」
鴉が、簡素な台所で採ってきた魚を三匹縄から外してさばいていきます。
「お、おい!ここは一体どこだ!?俺は」
「海岸に倒れていたのを鴉が拾ってきた。感謝するんだな、半日もあそこに放置されていれば怪魚共の餌だ」
「お、狼がしゃ喋った」
「・・鴉、こいつ喰っていいか」
「駄目だよ。肉嫌いの癖に」
そんな話をしていると、ぐつぐつと何かが煮える音と一緒にいい匂いがしてきました。そして、鴉が青年の方へ歩いていきます。
「名前」
「・・・・ヒュイ。お前らこそ誰だ・・よ」
「私は鴉。こっちは朱。ヒュイ、お前はどこから来た?」
ヒュイは、朱が怖いのらしく目を合わせない。
「・・ここから、百キロ程離れているパキアという国だ。俺は事情があって家を飛び出して海に出て・・」
ヒュイが下唇を噛み締める。朱が鼻で笑うようにヒュイに顔を近付けます。
「つまり、家出少年が海に出てこのザマか。ダッセ」
「//っな!」
ヒュイが初めて顔を上げた。だが朱の顔を見て苦虫を噛み潰した様な顔になる。
「で、どうすんだ鴉」
「・・身体が動くようになったら放り出す。後は好きにすればいい」
「そうしてくれたほうが助かる。どうせ近い内に救助船がくる」
「「それは無理だと思う(ぞ)」」
ヒュイが疑問の言葉を投げかけようとしたが、鴉が立ち上がって台所へ歩いていってしまった。
数分後、ヒュイの目の前に出されたのは木で作った器に盛られた琥珀色の液体。
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