オリジナル小説

□昔々のおはなし 4
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 鴉がいつも首からさげているロケットには、一人の老婦人が笑っている写真が入っています。
朱は、一人の老婦人の写真を自分専用の寝床に置いてあります。
二人がこの老婦人の話をするのは新月の夜だけ


「今日は新月だな。外が真っ暗だ・・」
「あの時と同じだね・・外の世界ではもう何年経ったのかな」



鴉が名も忘れてしまった国にいた頃、鴉の隣にはまだ誰もいなかった。
親と呼ぶはずの人間は、鴉をいつも恐れていた。
鴉の紅い瞳を見ては、人は鴉を魔女と呼んだ。
鴉は、いつも一人だった。
「・・お母さんたち出掛けてくるから・・・いい子で待ってるのよ」
顔を上げないで扉を閉める女性。ガチャガチャと鍵を閉める音だけが妙に長い。
鴉の部屋の扉には、数えるのも大変な数の鍵が掛けられている。
新月の夜、鴉はいつものように外を散策した。もちろん部屋の鍵は付いたまま
外を照らす光が無くなった時を好んで外に出た。
自分と同じ色が広がる世界を

「・・お譲ちゃん、こんな時間に散歩かい?」
いつものように街灯の無い道を歩いていると、真っ白な髪と真っ白なショールが目立つ老婦人と真っ赤な毛並みと真っ赤な瞳をもつ大きな狼が表れた。
「おばあちゃん、わたしに何か用?」
「こんな時間に子供が出歩くなんて気になったから。声を掛けてみたの」
「・・わたしがこわくないの?」
「どうして、こんなに可愛らしい女の子を怖がるのかしら?それなら、こっちの方がもっと怖いと思うのだけれど」
老婦人が狼の頭を撫でた。
「・・うるせ」
「このおおかみさんに名前はあるの?」
「ねーよ。俺は誰のもんにもならねぇからな・・」
「・・こわいの?名前があるとしばられるから・・」
狼が大きく目を見開いた。鴉の瞳は狼をしっかり見据えている。
「・・・わたしと同じだね」
「そうだな。同じだ」
狼が鴉に向かってほんの一瞬だけ笑った。他人から見れば狼の表情なんて判るはず無いのだが、鴉にはそう見えたのだ。
「おばあちゃんはいつもここに来るの?」
「そうねぇ。今日は偶々来たの・・そうだ、この先に私のお家があるの。気が向いたら寄って頂戴?お茶くらいはごちそうするわ」
「わかった・・・・じゃあね。おばあちゃん、おおかみさん」
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