novel
□透明な記憶
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『透明な記憶』
虹の色は七色ある
最初に教えてくれたのは
たぶん…あの人
色の無い世界にいた僕に
たくさんの色を
教えてくれたのは…
あの人
とても綺麗な
澄んだホンモノの瞳で
僕を見つめてくれた
気が付くと僕は此処にいた。いつからいたのか自分では分からない。それくらい小さな頃からいたんだろう。勝手にそう解釈している。此処は孤児院。親のない子供の住む家。
抱き締めてくれる腕は、その他多くのうちの一人。
当たり前だと思っていた幸せが、もうひとつあった事を知った日…僕は此処を出ようと決めた。
僕だけを愛してくれる人を探して。たくさんの中の一人なんて嫌だ。僕だけに注がれる愛が欲しい。両手に溢れてしまうほどの愛。それを持て余してみたい。
そしてクリスマス会の夜。僕は小さな籠から飛び出した。大きな愛を求めて。
今夜はクリスマス。
きっとサンタさんが僕にプレゼントをくれる。
こっそりと貯めた僅かなお金と安物の靴。それだけで僕は籠を出た。
早く迎えにきてください。どこかにいる誰か…。