novel
□透明な記憶…番外編
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『斎藤診療所(1)』
いらっしゃいませ
今夜のお客様は
……あなたですね?
「……っ、…?」
「先生っ、危ない!」
よろめく長身の吉田をとっさに支える鈴。
「…すまない、鈴。」
胸元に付けた天秤の弁護士バッチ。細身のスーツに身を包んだ吉田が片膝をつき目頭を押さえる。その傍らで吉田の肩を支えながら心配そうな顔をする助手の鈴。二人は今日の仕事場、家庭裁判所に向かう途中。
「ここ数日、仕事を詰め込みすぎたようだな。」
「先生…この裁判が終わったら休暇をとった方がいいですよ。もう二ヵ月も休み無しなんですからっ!」
鈴に支えられ立ち上がる吉田。そんな二人を背後から、じっと見つめる男の視線。獣が獲物を狙うように気配を消し、隠れるようにしながら上着に片手を突っ込む。
「あいつが近藤組の土方だな。スーツなんか着やがって…顔は写真で確認済みだからな。桂の仇を打たせてもらうぜ。」
男は上着から拳銃を取出し、吉田にその銃口を向けた。そしてカチリと引き金を引く。
バアァァン!!
響き渡る銃声。
どよめきかえる通行人達。午後の大通りは騒然となった。