novel
□透明な記憶…番外編
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『斉藤診療所A』
…あなたは………
いえ、何でもありません
お代を頂ければ
それだけで充分です
深夜、斉藤診療所の扉が開いた。一人の男が肩を押さえて立っている。
「すまない、医者はいるか?」
押さえた肩から流れる赤い血が診療所の床を濡らす。相当な傷だというのに男は平然とした顔のまま。そして診療所の奥から姿を現した斉藤。
「おや、扉には鍵をかけていたはず…どうやって入られた?」
斉藤診療所の扉は常時施錠されている。しかし男は音も立てず中に入ってきた。斉藤は髪の長い長身の男の顔を見た。
冷めた笑顔。それは斉藤にも通ずる表情。痛みを堪えているようにも見えない。
「鍵など俺には意味がないのだ。すまないが、この血を止めてくれ。深く切られてしまったようだ。」
「これは…。」
斉藤が男の押さえている肩を覗き見る。縦にばっさりと刀で切り裂かれ、肩の赤身の肉が露出している。常人なら気絶しているはず。だが男は息を荒げてもいない。
「お代はいかほどに?」
「ここにある。」
男は上着の中から札束を取り出した。あちこちに血の染みがついている。