novel

□透明な記憶…番外編
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『聖なる音』




鈴が鳴る
サンタのそりを引く
トナカイの首についた鈴

近づいては遠のく

近づいては、遠くへ



「総司、あなたには教会の中の掃除をお願いするわね。」

「はい、シスター。」

明日はクリスマス。イブの今日は朝から孤児院の中も明るい光に包まれている。小さな子供達は手に手に飾りを持ち、ツリーを囲んでいる。少し大きな子供の僕達は掃除の手伝い。数年前までは僕もあの輪の中に居て、本当にサンタがいると信じていた。願えば、叶う。皆、そうシスター達に言われ育てられた。だからイブの夜は特別なのだ。願いを胸にツリーを飾る。今夜、もしかしたら…パパやママが迎えにきてくれるかもしれない。もしかしたら、もしかしたら。小さな子供達は知らない。もう僕らを迎えてくれる家などない事を。

ここは、孤児院なんだ。

教会の中を箒で掃きながら僕は考えていた。誰がサンタクロースやクリスマスなんて作ったんだろう。信じている、その想いが破られた日の落胆を思い出すと今でも溜息がでる。どうせなら、只ケーキを食べる日とかにしてほしかった。
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