novel
□透明な記憶…番外編
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『二月十四日』
一年に一度
甘いお菓子と
愛にまみれた日
それは
二月十四日
この部屋にはカレンダーがない。僕は曜日も日にちも考えなくていい毎日を送っている。だからカレンダーなんて必要ない。今の僕にはあの人がすべてだから。
桂に買われてから一ヶ月がたったある朝。いつものように出かける桂を見送って僕はテレビの前へ。リモコンを片手に床にしゃがみこむ。孤児院に居た頃はテレビなんて滅多に見る事ができなかった。僕は四角い画面から溢れる情報に飲み込まれる。心地よい堕落感。自分の力で生きていくと誓ったはずなのに……何をやっているんだろう。分かってはいるが、欲求に負けてしまう。抑圧されていた物欲を満たしてくれる桂との生活。代わりに僕は桂の性欲を満たしてやればいい。抱かれる度に覚える抱かれ方。桂を喜ばせるのが僕の仕事なのだから。
「…………チョコ?」
あちこちチャンネルを変えていると、ある番組に目が止まった。たくさんのチョコレートが並べられている。綺麗に輝く丸や四角いチョコレート達。僕の口の中には唾液が流れ出した。
今日はバレンタインと呼ばれる日。テレビを一時間も見ていたら、それがどういう意味をもつ日なのかを理解できた。